コラム

コラム「グローバル連結経営管理を考える」

グローバル連結経営管理を考える 中澤進  ビジネスブレイン太田昭和 会計システム研究所 所長 日本CFO協会 主任研究員

第3回 管理会計の役割の原点回帰(2) “グローバル化で求められる管理会計の役割・機能”

KPIを明確化する

前回、管理会計のフレームワークを定義したが、今回は、その各々のプロセスでグローバル環境で求められる役割・機能を解説する。

まず戦略の数値化のプロセスである。アナログからデジタルという視点で最も重要なプロセスである。いわゆるKPI(Key Performance Indicator)決定である。異人種・異文化で構成される組織員へ経営の意思をデジタル情報として的確に伝えるための最重要のプロセスである。このKPIは大きく3つのレベルで考えると良い。一つが経営者としての意思である戦略を投資家と共に企業内部へ対しても具体的に示すための経営指標、次に現場活動の直接的な目標となる活動指標あるいは先行指標、3つ目が経営指標と現場活動を結びつける結果指標あるいは成果指標と呼ばれるものである。そして、これらを明確定義すべきである。これはトップ、ミドル、現場の各マネージメント層の役割を明確にする事と同義である。
異人種・異文化の世界では、全社一丸となってという価値観は通用しない。各自の役割を明確にしなければ組織が機能しない。そのためにもマネージメント階層ごとのKPIを明確にする事は重要であり、溢れ返るKPIという状況を防ぐ事ができる。

また、結果指標を会計情報(勘定科目)と連携させる事で、現場での個々の活動が企業全体の活動の結果である財務諸表に連携され投資家へ向けてのタイムリーかつ正確な情報開示を可能とする。この活動指標から経営指標への情報の連携をビジネスブレイン太田昭和では“説明責任価値連鎖邃「”と呼ぶ。

予算編成プロセスに必要な要素とは

次に予算編成プロセスである。数値化された経営の意思を組織内へ浸透させるプロセスとして位置付けなければならない。上位マネージメントと下位マネージメントの契約のプロセスであり、組織内に必達(コミットメント)意識を醸成させるプロセスという役割も持つ。グローバル化した多様性を前提とした組織では、数値に基づく契約と言う概念は必須である。曖昧な予算設定は曖昧な業績評価となり不公平感をもたらす可能性が高くなる。

日本人同志の中であれば、阿吽の呼吸での目標設定、以心伝心での業績評価というアナログ的予算運営は成立するが、異人種・異文化の中では通用しないばかりは不信感を招く事となる。
また、必達意識を持って契約関係を成立させるためには納得感を醸成しなければならない。予算編成の手法として合意形成に効果的なボトムアップ、経営の意思を効率的に伝達できるトップダウンとあるが、いずれにしても重要なのは上位マネージメントと下位マネージメントのコミュニケーションの深さである。経営の置かれている立場、現場が置かれている立場をお互いが事実情報ベースで理解し合わなければ必達意識も契約関係も成立しない。
そのためには、予算編成のプロセスの中での上位と下位とのコミュニケーション回数が重要な要素となる。このプロセスをグループ・グローバルで高頻度で実施するには予算編成用のIT基盤の整備は必須となる。

先読み(フォーキャスティング)情報の精度と均質性の確保

最後にモニタリング・フィードバックのプロセスである。いわゆる予算実績管理と言って来た領域である。 従来、年初あるいは半期で立てた予算に対しての実績を分析し次年度、次四半期、次月の行動を考えるというサイクルであった。
ところが、ビジネスの短サイクル化、グローバル化に伴いビジネスのボラティリティーが高まった結果、中期計画から展開された年度予算に拘泥していたのでは機動性を損ねてしまう。

予算とは、ある時点における先読みした前提条件を元に設定された仮説であり、その前提条件の変化に応じて、タイムリーかつ柔軟性を持って修正を行う事が当然の事として捉えなければならない時代となっている。ブルーチップといわれる欧米の優良企業では、年度予算とは別に、この仮説見直しを週単位でやっている場合が多い。いわゆる先読み(フォーキャスティング)をベースにしたモニタリング・フィードバックのプロセスである。
予算を固定化すると、ビジネス環境の変化により、明らかに達成不可能な予算値を持った状態に陥った事業部門と、逆に、余裕を持って予算値が達成できる事業部門が期中で存在する事となる。そこで、予算の変更を行わないままでいると、前者はモラルが低下し活動が鈍り更なる実績の低迷という結果を招き、後者は、別途の指示が無い限り、通常それ以上のチャレンジは行わない。結果として、全体の予算値が未達成となる。もし、その予算値をダイナミックに変動させ人・物・金の経営資源の再配置を行えば、予算未達成部門のカバーを他の部門ができた可能性がある。このフォーキャスティング情報を使った週次単位で仮説検証をグローバル・グループで実施しようとするものである。

ここで重要になるのは先読み(フォーキャスティング)情報の精度である。 ここで言うフォーキャスティングは決算見通し等とは全く異なる。まず、この数値は、実現可能な数値としてビジネスの現場に最も近い部門からの積み上げられた将来事実であり、生産、物流、調達等と連携される精度を持つ情報である。ここでのポイントは事実情報を把握するということである。楽観的でも悲観的でも良くない。例えば、第一線での過度な頑張リズムは精度を担保する上での最大の敵となる。そのためには、上位マネージメントによる無意味な叱責は事実が隠蔽される要因となる可能性があり、最も避けなければいけない点である。

次に、この情報が、組織として共有され認定された情報でなければならないと言うことである。現場の一営業担当者の権限あるいは能力での判断と上位マネージメントでの判断では情報の見方が当然変わって来る。そのためにも、上位マネージメントが現状の掌握を正確にしなければならない。
さらに重要なことは情報の均質性の確保である。フォーキャスティング情報の中心は売上情報とその先行指標である受注情報である。これらの情報をフォーキャスティング情報として活用する場合は、最終的に受注あるいは売上計上に至るプロセスの定義とそこでの可能性(確率)についてのルールを決定しておく事が必須となる。
以上の要素を視野に入れて週次でのフォーキャスティングサイクルを回す必要がある。このサイクルをグローバル・グループで実施するためにはITシステムの存在が必須になることは容易に想定できる。KPIを絞り込んだ予算管理のサイクルを毎週実施すると考えると予算編成用に構築したITシステムをそのまま活用できる。

2回と3回では管理会計の基本的な考え方とグローバル環境での考慮点を解説して来たが、次回は、日本企業に取って最も取り組みが困難である連結ガバナンスについて解説をする。

 
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