第2回 新収益認識基準(IFRS第15号)の計上単位の考え方

今回は、IFRS第15号の計上単位の考え方について、【ステップ1】契約の識別、【ステップ2】履行義務の識別と、関連した個別論点について説明します。

新収益認識基準(IFRS第15号)の計上単位の考え方

【ステップ1】契約の識別

「契約」と一口にいっても、会社の行う契約には様々な契約があります。ステップ1では、IFRS第15号を適用しなければならない契約を特定します。
契約には、書面によるものに加えて、口頭や、商慣習での暗示も含まれます。

IFRS第15号は、以下の5要件のすべてを満たす契約を対象とします。

  • ①契約の当事者が契約を承認し、義務の充足を確約している。
  • ②移転させる財・サービスに関する各当事者の権利を識別できる。
  • ③移転させる財・サービスに関する支払条件を識別できる。
  • ④契約に経済的実質があり、将来キャッシュ・フローが見込まれる。
  • ⑤対価の回収可能性が高い。

また、複数の契約を一括で取り扱うケース(=契約の結合)や、契約範囲や価格変更(=契約変更)があった場合の取扱いについて、規定があります。

【ステップ2】履行義務の識別

IFRS第15号では、財・サービスの移転に合わせたタイミングで収益計上します。ただし、移転する財・サービスそのものに注目するのではなく、移転によって義務が果たされる点、つまり「履行義務の充足」に注目して、収益の計上タイミングをとらえることとしています。

履行義務は、先に別個の財・サービスの特定を行ってから、その識別を行います。 IFRS第15号では、第26項で10種類の財・サービスが例示されています。
財・サービスは、以下の要件を両方満たす場合に、別個の財・サービスとします。

  • ①顧客が財・サービスからの便益を、それ単独で又は顧客にとって容易に利用可能な他の資源と組み合わせて得ることができる。
  • ②契約上で、区別・識別できる。

複数の財・サービスを含む契約の場合には、履行義務が財・サービスの移転タイミングをとらえるためのものであることを踏まえ、ほぼ同一の内容であり、移転のパターンが同じである一連の財・サービスを一つのまとまった履行義務とします。これに当てはまらない別個の財・サービスは、それぞれを別の履行義務とします。

これをビル清掃契約の例で示すと、次のようになります。

履行義務の識別の具体例について、以下の個別論点で紹介します。

個別論点(1)製品保証と履行義務

①サービス型の製品保証のケース

<ケース>

パソコン販売1,000と、オプションの製品保証サービス(2年間)100を一体の契約で現金販売しています。内容はアフターサポートであり、顧客との契約書上、両者は内訳が区別されています。

<検討>

製品保証サービスはオプションであり契約書上も区別できること、内容は製品が合意された仕様に従っていることの約束でなくアフターサポートであることから、パソコン販売と製品保証サービスの履行義務は区別します。

<仕訳例>

パソコン販売の収益1,000と、期間按分して今期に帰属する6ヶ月分の製品保証サービスの収益25を認識します。

(借)現金
1,100
(貸)収益(物品販売)
1,000
(貸)収益(製品保証)
25
(貸)前受金(契約負債)
75

<業務・システムの考慮事項>

販売システム等において、一つの契約の中から、パソコン販売のような一時点で収益計上する項目と製品保証サービスのような一定期間で収益認識する項目を区分して情報保持することが必要となります。
販売システム等において、一定期間で収益認識する項目の収益計上に必要な情報収集、計算の仕組みが必要となります。
一定期間で収益認識する項目の期間按分方法について検討する必要があります。
従来、製品保証を引当金で処理していた場合、費用項目から収益項目の一部繰り延べに会計処理が変更されることから、関連するKPI(重要業績評価指標)への影響に留意する必要があります。

②保証型の製品保証のケース

<ケース>

テレビの販売時に、販売店独自で5年保証をつけています。この保証は顧客が付与するかどうかを選択できません。5年保証は、当初の仕様どおりに動作することの保証です。

<検討>

製品保証が、製品が合意された仕様に従っていることの約束であり、独立して購入できないものである場合、保証は独立のサービスではないため、別個の履行義務としません。別途、引当金として処理します。

<仕訳例>

IAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」に基づき必要な情報を収集・計算した製品保証引当金10を計上します(収益認識の基準から外れるため詳細な計算過程は省略します)。

(借)製品保証費
10
(貸)製品保証引当金
10

<業務・システムの考慮事項>

  • IAS第37号に従って引当金の計算ができるような情報収集、計算の仕組みが必要となります。

個別論点(2)設置作業を伴う機械装置販売と履行義務

<ケース>

サーバ販売と設置サービスを合わせて販売しています。X1期にサーバを搬入し、X2期に設置サービスを提供します。契約書上の金額内訳は、サーバ600、設置サービス100です。 設置サービスは一般的な技術で実施できるものであり、顧客が別のサービス企業に依頼して設置作業を行うことも可能です。

<検討>

設置サービスは、顧客が独自で選定するサービス企業を利用することでも実施できることから、サーバ販売と設置サービスは、別個の履行義務として区別します。

<仕訳例>

X1期に、サーバを搬入しました。

(借)売掛金
600
(貸)収益(物品販売)
600

X2期に、設置サービスを提供しました。

(借)売掛金
100
(貸)収益(設置サービス)
100

<業務・システムの考慮事項>

  • 販売システム等において、一つの契約の中から、サーバ販売と設置サービスを区分して情報保持することが必要となります。
  • 従来、サーバ販売と設置サービスの収益を一括で計上していた場合、収益計上タイミングが変わることから、関連するKPIの時系列評価への影響に留意する必要があります。

個別論点(3)ポイント制度と履行義務

<ケース>

ポイントカードを発行しており、購入額100につき1ポイントを付与しています。ポイントは1ポイントあたり購入代金1に充てることができ、次回以降の購入時に利用できます。 今期のポイント付与対象の物品販売額は100,000で、1,000ポイントが付与されています。将来のポイント利用見込は900ポイントです。

<検討>

ポイント制度は、将来、財・サービスを無料又は値引き価格で取得するオプションに相当し、別個の財・サービスとみなされ、履行義務を区分することが必要です。 この履行義務は、ポイント使用時(財・サービスの移転時)またはポイント失効時(オプションの消滅時)に収益認識します。

<仕訳例>

所定の計算により、ポイント付与対象の物品販売の履行義務に99,108、ポイント制度の履行義務に892を配分します。

(借)現金
100,000
(貸)収益(物品販売)
99,108
(貸)前受金(契約負債)
892
計算式
収益(物品販売)99,108 = 100,000
✕(100,000+900)✕100,000
前受金(契約負債)892 = 900✕(100,000+900)✕100,000

<業務・システムの考慮事項>

ポイントの履行義務に配分する取引価格の計算方法について、業務検討が必要です。
ポイントの消費・交換・失効見込みの算定方法について、業務検討が必要です。
システムについて、ポイントの会計処理に必要な情報収集、計算の仕組みが必要です。
従来、ポイント負債を引当金(費用)として処理していた場合、費用項目から収益項目の繰り延べに会計処理が変更されることから、関連するKPIへの影響に留意する必要があります。

<今回のまとめ>

  • ◆収益認識の対象となる契約について、5つの要件に照らして特定する。
  • ◆収益認識は、財・サービスの支配移転を表す履行義務の単位で行われるので、履行義務の区別が重要となる。
  • ◆販売などのシステムで、収益取引を履行義務単位で管理し、契約単位の情報を導き出せるような仕組みの構築が必要となる。

(注) 仕訳例の勘定科目は例示であり、今後、IFRS第15号での新しい概念・用語を反映した新しい名称の勘定科目が一般的となる可能性があります。また、税効果仕訳、消費税仕訳は考慮していません。