コラム

コラム「【IFRSコラム】IFRS新リース基準と企業への影響」

第3回 「経過措置・初度適用、財務諸表・業務・システムへの影響」

今回は、IFRS新リース基準の内容説明として経過措置及び初度適用の取扱いを説明します。その後、財務諸表・業務・システムへの影響及び基準適用への準備について説明します。

○経過措置

IFRS適用済の企業が旧リース基準から新リース基準へ切り替えする際の経過措置として次の内容が定められています。

(1)リースの判定
IFRSを既に採用し旧リース基準を適用している企業が新リース基準を適用する場合、適用開始年度の期首(以下「適用開始日」という。)前に開始された契約について、前回のコラムで説明した「『リース』の判定」のやり直しは必要ありません。

(2)既存の「リース」の処理(借手の処理のみ記載)
旧リース基準で「リース」と判定していた取引に対し、新リース基準の使用権資産やリース負債の計算等を適用して再計算するか否かについては、図表1のいずれかとなります。

図表1:遡及方法

方法 内容
全面遡及アプローチ 比較年度にも新リース基準を適用して修正再表示する。すなわち、過年度に遡及して使用権資産やリース負債等を再計算し、比較年度でも新リース基準が適用されていたかのように表示します。
修正遡及アプローチ 比較年度は修正再表示しない。すなわち、新リース基準との差異は適用開始日の利益剰余金期首残高の修正として認識します。

また、の場合に、旧リース基準でオペレーティング・リースとして処理されている「リース」とファイナンス・リースとして処理されている「リース」では取扱いが異なり、図表2のように扱われます。

図表2:旧リース基準上の分類別の経過措置

旧リース基準上の分類 旧リース基準上の取扱い 経過措置の取扱い
・オペレーティング・リース
・新リース基準で新たに「リース」となる取引
オフバランス オンバランス (使用権資産及びリース負債を適用日で計算(※))
・ファイナンス・リース オンバランス (旧リース基準で計算してオンバランスされたリース資産及びリース負債の適用日での金額を引き継ぐ)
  • (※)適用開始日から12ヶ月以内に終了するリース及び少額リースについてはオフバランスの継続が認められています。その他、簡易的な取扱いがIFRS第16号C8-C10にて定められています。

オペレーティング・リース及び新リース基準で新たに「リース」となる取引が多数ある場合、過年度に開始された契約をオンバランス処理するために、使用権資産・リース負債の計上額の計算、使用権資産の固定資産管理システム・リース管理システムへの登録作業負担の大きさについて注意が必要です。

○初度適用

日本基準適用企業がIFRS適用に基準変更する場合の初度適用規定について説明します。

(1)「リース」の判定
個々の「リース」のリース開始日に遡らず、IFRS移行日時点の事実及び状況に基づいて「『リース』の判定」を行うことができます。

(2)既存の「リース」の処理(借手の処理のみ記載)
個々の「リース」のリース開始日に遡らず、図表3の取扱いが可能です。

図表3:既存のリース負債、使用権資産の初度適用時の測定

リース負債 ・IFRS移行日現在で測定
・割引率はIFRS移行日現在の借手の追加借入利率
使用権資産 リース1件ごとに次のいずれかを選択

新リース基準をリース開始日から適用した帳簿価額で測定。割引率はIFRS移行日現在の借手の追加借入利率
リース負債と同額(前払・未払リース料は調整)
  • (※)IFRS移行日から12ヶ月以内に終了するリース及び少額リースについてはオフバランスの継続が認められています。その他、簡易的な取扱いがIFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」D9B-D9Eにて定められています。

前節と対応させて日本基準のオペレーティング・リース、ファイナンス・リース別に対比すると図表4のようになります。

図表4

日本基準適用時の分類 日本基準上の取扱い 経過措置の取扱い
・オペレーティング・リース
・新リース基準で新たに「リース」となる取引
オフバランス オンバランス
・ファイナンス・リース オンバランス(前節の経過措置と異なり、原則としてオペレーティング・リース、ファイナンス・リースの区別なく図表3の再計算が必要)

経過措置と異なり、初度適用ではすべてIFRSベースで再計算するのが原則的な取扱いとなります。
したがって、初度適用の場合、短期リースに準じたリースと少額リースを除く全リースについて、使用権資産・リース負債の計上額の計算、使用権資産の固定資産・リース管理システムへの登録作業等が必要になります。もっとも、日本基準のファイナンス・リースの処理は、IFRSの処理に近似した処理であったため、一般的には重要性の判断を考慮して対応する事になると考えられます。
いずれにしても、現行のオペレーティング・リースに関しては計算・登録作業が必要です。また賃貸取引等でも新リース基準の適用により新たに「リース」となるものがあります。したがって、負担の大きさについて注意が必要です。

○財務諸表への影響

従来はオフバランスで処理されていた賃貸取引・オペレーティング・リースが新リース基準の適用でオンバランス処理になる場合でいうと、以下の影響があります。

・財政状態計算書(貸借対照表)
使用権資産及びリース負債が新たにオンバランスされ、総資産及び負債が増加します。これによりROA・負債比率・自己資本比率の悪化等、経営指標に影響があります。

・包括利益計算書(損益計算書)
旧リース基準で計上されていた賃借料がなくなり減価償却費及び支払利息が計上されることになります。賃借料はリース期間中一定額であることが多いのに対し、利息法により計算される支払利息はリース負債の残額が大きい初期に多額に計上されるため、リース期間の前半に最終利益は減少します。ただし、支払利息は金融費用として計上されるため、営業段階の利益は増加します。

図表5:財政状態計算書及び包括利益計算書への影響

・キャッシュ・フロー計算書
新リース基準の適用は会計処理の変更であり、新たにキャッシュの流入・流出があるわけではありませんが、キャッシュ・フロー計算書上の表示区分には影響があります。旧リース基準では賃借料支出は営業活動によるキャッシュ・フローに含まれていましたが、新リース基準ではこれがなくなり、リース負債の返済による支出の計上(→財務活動によるキャッシュ・フローの支出増加)及び支払利息の計上(→営業活動または財務活動によるキャッシュ・フローの支出増加)に変わります。また使用権資産の減価償却費が計上されます(→営業活動によるキャッシュ・フローの収入増加)。

図表6:キャッシュ・フロー計算書への影響

○業務への影響

(1)購入・リースの判断への影響
購入かリースかの意思決定にあたり、購入かリースかの判断上、リースのメリットがかなり失われます。
したがって、設備の購買方針(購入・リースの選択方針)を再検討することが考えられます。

図表7:リース取引(現行会計処理はいわゆる賃貸借処理とする)の従来のメリットへの影響

従来のメリット 新リース基準による影響
定額のリース料を計上すればよいため、会計処理が簡単 影響あり 「リース」の判定、使用権資産の償却、リース負債の算定等、会計処理はかなり複雑になる(リース負債の計算が必要という点では購入より作業量が多い)
損益計算書上での費用の平準化が図れる 影響あり 減価償却費+支払利息の計上になるため平準化しなくなる
オフバランスで設備を利用できるため、ROA等の経営指標(KPI)で効率的に見せることができる 影響あり ROA等の経営指標(KPI)は悪化するものがある
耐用年数よりリース契約期間が短期である場合、早期に損金算入され、税金削減効果が早期に現れる 影響なし 日本ではIFRSは連結財務諸表のみが適用対象であり、課税所得には影響しない
当初に多額の資金を用意する必要がない 影響なし キャッシュ・フローには影響しない
付保手続、保守メンテナンス業務、現物処分等で管理事務工数の削減が図れる 影響なし 現物管理には関係ない
一時的にしか利用しない資産・設備を柔軟に調達・利用できる 影響なし 現物の利用には影響しない

(2)賃貸契約・リース契約での契約条項の検討
原資産の使用状況や契約内容によっては「リース」の判定を明確に行うことが困難なケースも想定されます。賃貸契約・リース契約に際して「リース」判定が明確となるように契約内容を貸主・リース会社と協力して検討することが考えられます。
また前回説明したように「リース期間」の決定では解約不能期間に「行使することが合理的に確実な延長条件、解約条件」を加減しますので、延長条件、解約条件には注意して契約検討する必要があります。

(3)業務フローの見直し(単体会計)
賃貸契約・オペレーティング・リースは、従来はオンバランス処理に付随する減価償却費計算等が必要なかったため、企業によっては総務部門を中心に管理し、経理部門は賃借料・リース料の支払のみ行う分担となっているところもありました。
しかし、新リース基準の適用後は、「リース」の判定、使用権資産・リース負債の当初測定が必要になるため、契約時に、判定や算定に必要な証憑の提出を受ける必要があります。したがって、賃貸契約・リース契約プロセスでの経理部門の関与、提出証憑について、大幅な見直しが必要になる場合があります。
また、現状ファイナンス・リースである契約も含め、条件変更等により使用権資産やリース負債を再測定するプロセスの整備が新たに必要となります。

(4)業務フローの見直し(連結財務諸表作成)
日本の開示制度上、現時点(2016年12月末)ではIFRSは連結財務諸表のみ適用であり、単体財務諸表は日本基準が引き続き適用されますので、当面、新リース基準への対応は一般的には連結決算時における基準調整項目となります。
したがって、連結情報収集パッケージでの財務諸表の勘定科目の追加(使用権資産)や注記等収集情報の見直しが主な対応となります。

○システムへの影響

(1)使用権資産対象数の増加
リースにあたる賃貸等取引・オペレーティング・リースもオンバランスし、使用権資産の償却計算や、リース負債の(いわゆる)利息法計算を行っていく必要がありますが、従来処理対象の件数が大幅に増加する懸念があります。したがって、従来はオンバランスするリースの処理をExcel作業で対応していたような会社でも、決算の迅速化・計算ミス等による誤謬の防止等の観点から、使用権資産管理についてシステム利用するニーズは大幅に高まっていると考えられます。

図表8:旧基準の分類・管理方法別の新リース基準の影響

(2)新旧リース基準の差異
これまでの説明を踏まえ、新旧リース基準の差異に基づき、それに対応したシステム対応事項、影響事項を表すと図表9の通りです。

図表9:新旧リース基準の差異とシステム対応事項、影響事項

(3)連結調整
日本基準のリース基準とIFRSのリース基準の内容が異なる間は、連結調整で基準差異を調整することになります。業務効率の観点からは、固定資産管理システムで基準差異の算定を行うことが考えられます。

図表10:IFRSへの組替調整を連結調整で行う場合の情報連携イメージ

○基準適用への準備

基準適用への準備の全体像は、図表11のようになります。

図表11:基準適用への準備の全体像

ギャップ分析
・現行の契約・会計処理の調査
現行の賃貸契約・リース契約について「リース」の判定を行います。
新リース基準のリースの識別にかかる設例(IFRS16.IE2)を参考に、類似した賃貸契約・リース契約・他者の資産の利用がないかを調査し、「リース」の判定を行います。
オフバランスのリース契約も調査・資料収集します。
延長条件、解約条件についてはオンバランス済のリース契約も含めて調査します。契約期間が1年内の契約であっても、延長条件や更新を繰り返している実態があれば短期リースに該当するかは検討の余地が出てくるため調査対象として考えます。
・現状リース資産管理プロセス・関連システムの調査
現状のリース管理プロセス、すなわち、賃貸契約・リース契約締結、リース資産計上、リース負債計上、リース料支払プロセス等について調査します。また関連システムについて調査します。
・新会計方針仮説の設定とギャップ抽出
現行の契約・会計処理の調査で判明した「リース」の対象契約の実態や「リース」の判定結果に基づき、「リース」の判定条件についての自社に応じた読替え・詳細化等の会計方針仮説の設定を行います。また新リース基準で処理するにあたり、業務・システムで不足する点(ギャップ)を抽出します。

対応方針の決定
・対応範囲の方針決定
ギャップに対する取組方針を明確にします。重要性の基準値を設定し、取引の特性や重要性に応じて、新リース基準の対象となる賃貸契約・リース契約の範囲を識別し、新会計方針仮説を新グループ会計処理基準に取り入れます。
・業務・システム対応の方針決定
新リース基準による「リース」処理、IFRS連結調整、関連する業績管理指標の見直しに必要な業務・システムについて、対応範囲、対応内容の概要といった業務・システム対応方針を検討します。
賃貸契約・リース契約締結、使用権資産計上、リース負債計上、リース料支払プロセスに加えて、使用権資産・リース負債再計算プロセスについて検討するとともに、連結収集情報の見直しや、連結収集パッケージの見直しもカバーできるように検討します。
・会計監査人との調整
「リース」の判定とその結果として対象となる契約、使用権資産やリース負債に含める項目の範囲、リース期間(延長条件、解約条件、契約延長を繰り返し実質的に長期となっている契約)の考え方等、会計監査人との緊密な意見交換を行うことが重要となります。
・税務及び税効果影響の検討
新リース基準(IFRS)はまずは連結財務諸表での適用であるため、単体会計に基づいて行われる税務申告への影響はありません。
連結財務諸表で基準差異の調整は一時差異となるため税効果会計の対象となります。リース期間前半では「旧基準のリース料<新リース基準の減価償却費+支払利息」となるため、将来減算一時差異が発生し繰延税金資産が計上されます。解消見込年度が長期にわたるため回収可能性の検討に注意が必要です。
・実施計画の立案
各種方針の決定内容を受けて、新リース基準の適用日までに業務・システムを変更して適切に移行できるよう、実施計画に落とし込みます。

関係会社への展開
「リース」の判定、リース期間についての延長条件、解約条件の考慮の仕方等、判断事項が増えており、また、移行時には「リース」と判定された賃貸契約・他者の資産の利用及びリース契約についてオンバランス処理するための業務が各社で発生することから、関係会社への展開についても計画的に行うことが必要となります。

○補足:日本基準のコンバージェンス進捗状況

日本基準の新リース基準へのコンバージェンス時期は未定です。企業会計審議会が2016年8月12日に公表した「中期運営方針」において、今後、開発に着手するか否かを検討する基準にIFRS第16号「リース」も取り上げられていますが、11月14日の基準諮問会議では検討を開始していないと報告されています。

<今回のまとめ>

(経過措置・初度適用)

「リース」にあたる賃貸契約・現行でオフバランスしているリース契約も、適用日・移行日でオンバランスの対象となる。

(業務・システムへの影響)

賃貸契約・オフバランスしていたリース契約について、業務プロセスの見直しが必要になる。

「リース」の判定等、判断事項があり、監査法人との意見交換が重要となる。

単体用とIFRS用(連結用)で、複数基準でのリース台帳管理が必要になる。

業務・システムの変更に影響するため、対応は計画立てて行う必要がある。

 
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