BBS絵画コンクール 第8回受賞作品

2025年開催

テーマは「あなたの幸せな時間」。
今回は、BBS社員と小宮社長に加え、「アウトサイダー・アート」の第一人者であり、アーツカウンシルしずおかのチーフプログラム・ディレクターとしても活躍されている櫛野展正氏も選考に参加。合計12点の受賞作品を決定しました。
櫛野展正氏の受賞作品へのコメント・総評とともに、豊かな表現力で描かれたさまざまな「幸せな時間」をご覧ください。

BBS大賞

  • 「たのしいプールあそび」

    冨田 茉歩さん(愛知県)

    「たのしいプールあそび」

    お友達とプールでパシャパシャ遊んだ時間が楽しかったです。ママ達もいて、楽しかったです。

    櫛野展正氏のコメント

    青を基調としたプールの描写と赤い帽子のコントラストが鮮烈で、作者の楽しいプールの思い出がストレートに伝わってきます。特に中央の人物が両腕を広げたポーズは、全身で喜びを表現しているようにも見えます。人物や構造物は簡略化されていますが、水面やプールサイドの質感を微妙な色使いで巧みに描き分けている点は見事です。この大胆な色彩と自由な構図から、豊かな創造性が感じられます。

  • 「いとことねころんで見たかしわざきの大花火」

    水野 紗良さん(奈良県)

    「いとことねころんで見たかしわざきの大花火」

    なつ休みににいがたのいとこ3人とおねえちゃんとねころんで見た大花火は火のこがふっておちてくるようでとてもきれいではく力がありました。いとこといっしょに大花火を見られてとてもしあわせにおもいました。

    櫛野展正氏のコメント

    夜空に打ち上がる花火と、それを見上げる子どもたちの歓喜の瞬間を鮮やかに捉えた秀作です。天地が逆転したような子どもたちの構図は、空中を舞うような躍動感と独特の浮遊感を生み出しています。大胆なストロークと補色を用いた花火の表現も際立っており、画面全体に力強い動きと高揚感を与えています。人物の配置や床の模様も巧みで、平面的になりがちな構図に奥行きとリズムを加えた、完成度の高い作品です。

優秀賞

  • 「いただきます!」

    鷹取 遵さん(兵庫県)

    「いただきます!」

    ぼくは食べることが大好きです。特に、口に入りきらないくらい大きなハンバーガーにかぶりつく瞬間が幸せです。肉汁がじゅわーっと広がって、よだれが止まらなくなります。

    櫛野展正氏のコメント

    大きな口を開けてハンバーガーにかぶりつく大胆なクローズアップが特徴的な作品です。力強い描線と鮮やかな色彩が画面全体にエネルギーをもたらし、見る者の食欲を強く刺激します。特にハンバーガーの具材ひとつひとつが丁寧に塗り分けられ、リアルな質感が際立っています。背景の花柄もユニークで、じっと眺めていると心が満たされてくるようです。

  • 「日月四喜」

    竹林 楓恋さん(東京都)

    「日月四喜」

    当たり前に見えるものが、実はとても尊く、かけがえのないものです。だからこそ、当たり前ではない幸せな毎日が訪れ、それらを実感できる「今」こそが喜びであり、幸せです。「日月四喜」という言葉とこの絵画が象徴するように、大陽と月、そして四季の巡りの中にある喜びそのものが、私にとっての、"幸せな時間"です。

    櫛野展正氏のコメント

    緻密なペン画で描かれた幻想的な世界観が魅力的です。画面中央の目を核に、渦巻くような複雑な模様と、周囲に広がる植物や抽象的なパターンが細部まで描き込まれています。線描のバリエーションが豊富で、点の集合や密度の変化によって陰影や質感が巧みに表現されています。全体としてモノクロながらも奥深い画面を生み出し、鑑賞者を没入させる力があります。高い集中力と画力がうかがえる力作です。

  • 「幸福の実」

    山森 佐彌霞さん(岐阜県)

    「幸福の実」

    我家の庭のすみに一本のさくらんぼの木があります。毎年5月になると家族総出でさくらんぼの収穫をします。つまみ食いしながら、「ジャムにしようか、だれだれにおすそわけしようか、これくらいあげようか」そんな風に家族と話す時間に私は、はずむような幸福を感じます。

    櫛野展正氏のコメント

    家族総出でさくらんぼを収穫する様子を描いた本作は、家族団欒の楽しさに満ちあふれています。難しい構図ながらも画面に活気があふれ、収穫の喜びが伝わってくるようです。人物の表情が豊かで、特に上段の男性が今にも手を伸ばしてさくらんぼを取ろうとしている躍動感は見事です。木々の緑とさくらんぼの赤の美しいコントラストに加え、滲みや筆致を活かした表現が自然な風合いと瑞々しさを加えています。

  • 「雪か雨か雨か雪」

    一瀬 美春さん(大阪府)

    「雪か雨か雨か雪」

    私は雨も雪も嫌いだけど傘の中から見える雰囲気と色は大好きで、受験や将来など全部忘れてずっとこの景色の中に住みたいと思う程です。なので、絵の中だけでいいからそんな場所に存在する自分の虚しさと哀れさ、そして、身近にある神秘的な物をかきました。

    櫛野展正氏のコメント

    水滴の表現が非常にリアルで、雨の日の湿度や冷たさまで伝わってくるようです。モノクロームに近い色彩で統一されており、傘越しの視界がぼやけている様子が効果的に示されています。手前の傘のディテールと、奥に見える機械的な構造物や壁の質感の対比が面白く、どこか物悲しい雰囲気を醸し出しています。静かで内省的な心象風景に「幸せな時間」を見出す作者の心情にも興味を惹かれました。

佳作

  • 「笑顔が聞こえる」

    德政 光琉さん(千葉県)

    「笑顔が聞こえる」

    私は中学生になって勉強や部活でとてもいそがしくなった。新しい世界はとても楽しいけれどブランコを見ると思い出すことがある。遊ぶ事が学びだった。これから受験で大変になっていくだろう。私は心にブランコをずっと持って生きたいと思う。

    櫛野展正氏のコメント

    ブランコに乗った人たちが横向きに描かれた、独創的な構図に心を奪われました。画面右の人物は現在の視点を担い、そこから広がる風景は過去の思い出のようにも感じられ、絵全体がひとつの記憶のコラージュとして成立しています。葉や雲といったモチーフが浮遊することで、現実と記憶の境界を曖昧にする表現も見事です。楽しかった記憶との対比として、木の葉が舞い落ちる様子も効果的に描かれ、感情の余韻を深めています。

  • 「くつろぎたいむ」

    宮本 紗羽さん(北海道)

    「くつろぎたいむ」

    愛犬と弟が一緒にくつろぎながらうとうとしているところがいとおしくてとても見ていていやされました。なのでこのなごやかで優しい空間を表現するためにあわい色や白い部分などにはすこしピンクを入れてみるなどの色彩の工夫を頑張りました。

    櫛野展正氏のコメント

    作者の弟と愛犬が寄り添い眠る、愛おしい瞬間を捉えています。特筆すべきは、その卓越した描写力でしょう。細やかな筆致で愛犬の毛並みの柔らかさや立体感を、また子どもの肌の質感を巧みに表現しています。色彩のグラデーションと明暗を巧みに用いることで、柔らかな光と温かい雰囲気を見事につくり出しています。作者の高い画力と温かな眼差しが融合した本作は、見る者に深い安らぎを与えてくれます。

  • 「思い出のアルバム」

    菊地 リームさん(神奈川県)

    「思い出のアルバム」

    私の幸せな時間は、お母さんといっしょにアルバムを見ている時間です。自分の小さかったころの話や、家族の思い出を話しながら、アルバムのページをめくっていく時間がとても幸せです。

    櫛野展正氏のコメント

    作者自身の成長の記録と、母親との大切な思い出を振り返った作品に胸を打たれました。画面上部には現在の作者と母の姿が、下部には作者の成長の軌跡が丁寧に描かれています。柔らかな色彩と、異なるスケールでコラージュ的に配置された人物構成が、時間の流れと深い愛情を物語っています。それぞれの表情から母の温かい眼差しと作者の感謝の思いが伝わってきます。

  • 「レアなハートのグミ」

    松尾 明沙さん(岡山県)

    「レアなハートのグミ」

    友達と遊んだり、レアな形のグミがでたり、ちょっとしたいいことが重なってすごく幸せだなと感じることが多いです。

    櫛野展正氏のコメント

    マスク姿の女性がそっと差し出すハート型のグミに、ふとした瞬間のささやかな喜びが凝縮されています。丁寧な筆致と写実的な表現が光り、特にグミの透明感や手の質感が丁寧に描き込まれています。背景のぼかしも、主役であるグミと人物を引き立てており、温かい雰囲気を醸し出しています。日常の中に潜む小さな幸せを再認識させてくれる素敵な作品です。

  • 「触れ合う時間」

    津田 蘭さん(高知県)

    「触れ合う時間」

    私は動物と触れあうことが大好きです。それも、ただ私が触れて喜びを感じるだけではなく、私も動物に安心と幸せを与えたいと思っています。そうして、少しずつ距離を近付けていった時に動物からも歩み寄ってくれた時には、このうえない幸せを感じます。この絵を描いている間も羊のチビちゃんを抱えていた時に感じた幸せを思い出してチビちゃんの温かみを表しました。

    櫛野展正氏のコメント

    画面に大きく描かれた子羊の愛くるしい表情に癒されました。子羊の毛の質感や、作者の服の陰影などが丁寧に表現されており、透明水彩のような淡く優しい色彩が画面全体を柔らかな印象にしています。背景の風景も、被写体を邪魔することなく、穏やかな雰囲気を生み出しています。子羊のつぶらな瞳や、作者の穏やかな表情から、幸福な瞬間が伝わってくるようです。

  • 「創造」

    木室 樹さん(神奈川県)

    「創造」

    私が1番幸せだと思うのは絵を描いているときです。なので、私が絵を描いているときのイメージ図を描きました。なるべく明るく鮮やかな色を使って全力で「楽しい」「ワクワクする」を表現しました。

    櫛野展正氏のコメント

    鮮烈な色彩とダイナミックな表現が視線を引きつけます。特に、多色使いの髪と燃えるような瞳が強烈なインパクトを与え、キャラクターの活き活きとした表情を見事に捉えています。漫画的なデフォルメと細部の描き込みのバランスが秀逸で、見る者に強い印象を残す画力の高さが感じられます。これまで絵を描き続けてきた経験値の高さがうかがえる、エネルギッシュで魅力的な作品です。

総評

「あなたの幸せな時間」をテーマにした今回の絵画コンクールには、小学生から中学生の皆さんまで、心温まる素晴らしい作品が数多く寄せられました。応募された全ての作品から、描く人それぞれの「これを描きたい、表現したい」という強い想いが、独創的かつ豊かな表現となって表れていることに深く感動し、楽しく審査させていただきました。

家族との団欒や大好きな食べ物にかぶりつく喜び、自然の中での発見、大切なペットとの触れ合い、そして心の中に広がる幻想的な風景まで、多岐にわたる「幸せな時間」の解釈がありました。どの作品からも、作者自身の純粋な感動や喜びがひしひしと伝わってきます。

技術的な面でも、皆さんの観察力と表現力には目を見張るものがありました。鮮やかな色彩を大胆に使い、見る者の目を惹きつける作品がある一方で、緻密な線描や繊細なグラデーションで、光や質感、そして感情の機微を見事に捉えた作品もありました。特に、具材のリアルな質感、水面のきらめき、動物の毛並みの柔らかさなど、細部へのこだわりが、作品に一層の深みを与えています。また、通常では見られないようなユニークな構図や、人物の躍動感あふれるポーズからは、「こうでなければならない」という固定観念やルールに縛られていない、皆さんの伸びやかな創造力と表現への挑戦する意欲が強く感じられました。描きたいものを大きく描いたり、様々な角度から見たものを一枚の絵に収めたりする大胆さも、皆さんが描く作品の大きな魅力だと感じています。

描かれた瞬間瞬間に込められた、かけがえのない喜びや安らぎ、そして温かな愛情が、鑑賞する私たちの心にも深く響きました。絵を描くという行為を通して、言葉にはできない自身の内面と向き合い、感じたことを形にする皆さんの力は、何よりも尊いものです。

ご応募いただいた全ての皆さんの作品は、私たちに多くの感動と「幸せ」を届けてくれました。このコンクールが、皆さんが絵を描くことの楽しさを再認識し、これからも自由に表現し続けるきっかけとなることを心から願っています。素晴らしい作品を本当にありがとうございました。

櫛野 展正(くしの・のぶまさ)

櫛野 展正(くしの・のぶまさ)

広島県出身。京都芸術大学大学院芸術研究科修士課程修了(MFA)。
2000年より知的障害者福祉施設で介護福祉士として勤務する傍ら、2012年から広島県福山市鞆の浦の「鞆の津ミュージアム」にてキュレーターを務める。2016年4月にアウトサイダー・アート専門スペース「クシノテラス」を開設し、独立。表現せずにはいられない人々に焦点を当て、全国各地で取材を行いながら、執筆や展覧会の企画・運営に携わる。
主な著書に『超老芸術』(ケンエレブックス)、『アウトサイド・ジャパン 日本のアウトサイダー・アート』(イースト・プレス)、『アウトサイドで生きている』(タバブックス)など。
2021年より「アーツカウンシルしずおか」チーフプログラム・ディレクターに就任。
2022年、総務省主催「令和3年度ふるさとづくり大賞」にて総務大臣賞を受賞。
雑誌『AERA』(2024年12月30日-2025年1月6日合併号)において「2025年をリードする100人」に選出。