BBS絵画コンクール 第9回受賞作品

2026年開催

テーマは「ぼく・わたしの元気のひみつ」。
作品選考には、BBS社員と小宮社長に加え、昨年度に引き続き「アウトサイダー・アート」の第一人者であり、アーツカウンシルしずおかのチーフプログラム・ディレクターとしても活躍されている櫛野展正氏も参加。合計12点の受賞作品を決定しました。
櫛野展正氏の受賞作品へのコメント・総評とともに、豊かな表現力で描かれたさまざまな「元気のひみつ」をご覧ください。

本活動は、企業メセナ協議会より認定された芸術・文化支援事業です。

BBS大賞

  • 「family」

    森 咲くらさん(兵庫県)

    「family」

    私の病気がしんどい時、パパ、ママ、お兄ちゃん、家族が、私を守ってくれます。私にとって一番大切な家族。そして、私の一番の友だち、ネコのはち。はちは、いつも私のそばで、私を見守ってくれます。私の大切な、大切な、familyです。

    櫛野展正氏のコメント

    その圧倒的な存在感に心を奪われました。何よりも素晴らしいのは、自分自身よりもあえて大好きな猫「はち」を主役として画面中央に堂々と配置した、大胆で迷いのない構図です。この工夫によって、見る人の視線を一瞬で引きつける強いインパクトが生まれています。猫をしっかりと抱きしめる咲くらさんの手と、「家族」として深く結ばれたふたりの温かい絆が、画面全体から伝わってくる作品です。

  • 「只今、エネルギーチャージ中!」

    前田 琥太朗さん(神奈川県)

    「只今、エネルギーチャージ中!」

    大好きなサザンオールスターズの曲を聴きながら、ジオラマで理想の街を作る自分を描きました。好きな音楽と"ものづくり"が重なるこの時間は、想像力がどんどん膨らみます。ジオラマ作りに没頭するワクワクした時間こそが僕の心が元気になるひみつです。

    櫛野展正氏のコメント

    最大の魅力は、手前のジオラマから奥の襖、畳の目にいたるまで、あらゆる要素が均一な解像度で描き切られている点です。そこに引き算やぼかしは一切ありません。サザンオールスターズを聴きながら理想の街をつくる瞬間、琥太朗さんの目には指先も白線も、そして部屋の空気すべてが等しく主役として輝いていたのでしょう。その全方位への誠実な凝視が、絵画の中に驚異的な実在感を与えています。

優秀賞

  • 「絆」

    盛山 紗希さん(沖縄県)

    「絆」

    私は郷土芸能部で仲間と練習に励み、時には愚痴を言い合ったり、アドバイスをしたりといつの間にか家族のような関係になりました。それを意味し舞台前にはみんなで円陣を組み舞台に立ちます。作品ではシーサーのグラデーションや表情、手の質感を頑張りました。

    櫛野展正氏のコメント

    暖色の背景に対し、中央の人物が纏う青と白の鮮烈な縦縞が強烈な対比を放ち、一瞬で目を引きつけます。主役が絵の中に埋もれないのは、この色彩と文様の計算された効果でしょう。舞台前の円陣を組む無数の手の中に、演者やシーサーを組み合わせたコラージュのような画面構成も巧みでした。そこから伝統芸能の瑞々しい熱気が響いてくるようで、仲間を「家族」と表現する紗希さんの強い想いが真っ直ぐに伝わってきます。

  • 「夢みるお父さん」

    日髙 ゆりなさん(宮崎県)

    「夢みるお父さん」

    このお父さんを描こうと思った理由は、すごく格好が面白かった事と、最近お父さんを描いていなかったからです。難しかったところは、お父さんの顔です。いつも会っているので、スラスラと描けると思っていたけど意外とお父さんの顔を覚えていませんでした。工夫した事は、絵の具とクレヨンを合わせて使う事です。ソファーの質感が上手く描けました。

    櫛野展正氏のコメント

    ソファーで眠るお父さんの「面白い格好」を、画面を斜めに横切るダイナミックな対角線構図で力強く捉えた点が秀逸でした。「いつも会うのに意外と顔を覚えていなかった」というゆりなさんの言葉は美術の本質を突いています。毎日見ているからこそ、いざ描く時に改めてその存在を凝視する。ゆりなさんが「よく思い出そう」と真摯に色を重ねたからこそ、この寝顔には生身のリアルな深みが宿っているように感じました。

  • 「ゴシゴシあらう」

    木野 航太朗さん(大阪府)

    「ゴシゴシあらう」

    毎日、一日のおわりにぼくはおふろに入る。そのおふろで体をあらうと今日あったいやなことなどもきれいさっぱりあらい流れて、気分がよくなる。あと、おふろを上がったころにはおちこんでいたことなんてなくなって、いつもの元気なぼくに戻ってる。

    櫛野展正氏のコメント

    背景に広がる柔らかなオレンジ色のグラデーションから、お風呂のじんわりとした温もりが心地よく伝わってきます。技巧にとらわれない素朴な筆致が、一日の終わりにリラックスする浴室の空気感を見事に捉えていました。モコモコとした泡に包まれて「嫌なことを洗い流し、元気な自分に戻る」という誰もが共感できる癒やしの瞬間が、飾らない素直な表現として、画面全体に溢れています。

  • 「うめえ!」

    髙林 洸希さん(愛知県)

    「うめえ!」

    ぼくはお店ではじめてラーメンを食べました。雪のふる夜に道にまよって入ったラーメン店はあたたかくて、今までで一番おいしくて、つかれた気持ちが元気になりました。

    櫛野展正氏のコメント

    作品全体に漂う独特の質感が、雪の夜の冷たさをよりいっそう際立たせています。その冷たい空気感とは対照的に、器から渦を巻いて立ち上る温かな湯気。この冷え切った外の世界と、ラーメン店内の救いのような温もりの対比が実に見事でした。道に迷った不安を吹き飛ばし、心まで満たされる喜びを、この豊かな色彩とテクスチャで力強く表現しています。麺をすする洸希さんの、安堵に満ちた表情も印象的でした。

佳作

  • 「お母さんと二人きりの時間」

    井上 紫乃さん(滋賀県)

    「お母さんと二人きりの時間」

    わたしは、5人きょうだいなので、たまにしかお母さんと二人きりでいられません。だから、お母さんと二人きりでいられるとなんだか元気がでます。

    櫛野展正氏のコメント

    お母さんと二人きりという、紫乃さんにとってかけがえのない特別な時間が、画面全体から溢れ出ています。特に印象的なのは、本を読みながら足を高く跳ね上げた、その自由で開放的なポーズ。リラックスした心身のあり方が足の形から生き生きと伝わってきます。きょうだいが多いなかで、たまに訪れるお母さんと二人きりの楽しい時間を、ユーモアのある描線と爽やかな色彩で見事に描き出しました。

  • 「妹」

    川口 柚音さん(三重県)

    「妹」

    この絵は、ふだん妹のことをめんどくさいと思ったり、けんかしたりするけれど、一緒に遊んだり、ふざけあったりと面白いこともあって、一緒にいて元気がもらえるので妹というタイトルにしました。工夫したところは、妹の面白さと楽しそうなところを表現したところです。

    櫛野展正氏のコメント

    妹さんの、いたずらっぽく舌を出した表情と、楽しげなポーズが実に生き生きと描かれています。「めんどくさい」と感じることもあるけれど、一緒にいると笑いが絶えない——そんな姉妹のリアルな距離感と親愛の情が、この一枚から真っ直ぐに伝わってきました。浴衣にあしらわれた風車の柄も可愛らしく、背景に散りばめられた色とりどりのドットが、祭りのような賑やかな楽しさを演出しています。

  • 「今日の帰り道」

    佐藤 緋乃さん(北海道)

    「今日の帰り道」

    私の元気のもとは家族みんなでお出かけすることです。めったに家族全員でお出かけすることはないけれど、たまに出かけて、たわいのない会話をして、また新しい景色を共有する。そんなへんてつもない日々が私を幸せにし、元気にさせるのです。

    櫛野展正氏のコメント

    運転席から広がる夕暮れの景色を、ルームミラーに映る家族の視点と重ね合わせた構図が見事です。窓の外を指さす手が、家族との弾む会話を今にも聞こえてきそうなほど鮮明に伝えています。刻一刻と変化する美しい空の色と、この何気ないやり取りが、緋乃さんにとっては「かけがえのない時間」なのでしょう。新しい景色を共有する喜びが、この丁寧な筆致と繊細な色彩から伝わってきました。

  • 「フィルター」

    行木 咲希さん(東京都)

    「フィルター」

    私は文鳥という鳥を飼っています。この文鳥はいつでも思わず包みこみたくなるような愛おしさ、どんなに暗く落ち込んでいても花がひらくように光と希望を与えてくれる存在です。そんな私の家族を私の目線で描きました。文鳥はつややかなくちばしと大きなつぶらな瞳が美しく、華やかなフィルターがかかったような絵にしました。

    櫛野展正氏のコメント

    まるで闇の中に一輪の花がひらくように、真っ白な文鳥の存在感が際立つ美しい作品です。作者の咲希さんを包み込むような手の描写からは、文鳥への溢れんばかりの愛おしさと、かけがえのない絆がひしひしと伝わってきます。画面に散りばめられた色彩は、まるで光の粒子が舞っているかのように幻想的で、文鳥という小さな存在がもたらす希望の光そのものを象徴しているようです。

  • 「音楽ってサイコー!!」

    牧野 優希さん(静岡県)

    「音楽ってサイコー!!」

    僕は4歳からエレクトーンを習っていて音楽に触れていました。中学で吹奏楽部に入部してエレクトーンで一人の演奏も良いけれど、部活の仲間との演奏は更に楽しい事がわかりました。仲間と奏でた音がピタリと一致した時、大きな音を出した時、親友と演奏していると気分が上がります。

    櫛野展正氏のコメント

    ピアノの鍵盤の上で、仲間と肩を並べて演奏する姿がとても印象的な絵画です。個人で楽しむ演奏から、仲間と響き合い、一つの大きな音を創り上げる喜びへと進んだ優希さんの胸の高鳴りが、この鮮やかな画面から聴こえてくるかのようです。楽器から溢れ出した音符が自在に空中に舞う描写は、まさに音と音がピタリと一致していく高揚感を、見る者にまで擬似体験させてくれるような力作です。

  • 「今日も公園で遊ぼう」

    脇 玲美奈さん(静岡県)

    「今日も公園で遊ぼう」

    公園で体をおもいっきり動かして遊ぶ、それが私の元気のひみつです。家族や友達と大空の下で遊ぶといつのまにかみんなにこにこと笑いだします。そんな笑顔の瞬間を切り取って楽しい時間が伝わるように絵をかきました。

    櫛野展正氏のコメント

    公園一面に広がる緑の眩しさと、空へ向かって弾けるシャボン玉の輝きが、見ているこちらまで笑顔にしてくれるような作品です。体を動かす躍動感と、ふと笑みがこぼれる幸せな瞬間が見事に両立しています。背景の木々や遠くで遊ぶ人々の様子も丁寧に描き込まれており、公園の賑わいと心地よい風まで感じられるようです。あふれるような色彩と、のびのびとした筆致で力強く表現されています。

総評

テーマ「ぼく・わたしの元気のひみつ」のもとに、北海道から沖縄まで全国各地から550点を超える絵画が集まりました。審査の過程で繰り返し確信したのは、皆さんの描く「元気」が、決して外から与えられるものではなく、自身の内側から湧き上がるエネルギーそのものであるということです。

絵を描くとは、自らの言葉にできない頭の中のモヤモヤを形にすることです。応募作品の数々は、まさに表現への試行錯誤の軌跡でした。広大な景色を指さす瞬間の昂揚感や愛する存在を闇の中から浮かび上がらせる光の表現、仲間と音を合わせる一瞬の共鳴。これらは単なる日常の切り取りではありません。作者が「伝えたいけれど言葉にならない何か」を、自分だけの線のリズムや色彩感覚で画面へと定着させた、確かな意志の表れです。

もちろん、形を正確に写したり、きれいに塗ったりする技術を学ぶことは素晴らしいことです。しかし、今回の審査で何より心を動かされたのは、そうした手法の枠さえ突き抜けてくる、一人ひとりの揺るぎない個性です。ルールや正解をなぞるのではなく、迷いながらも自分の色を探し当て、画面いっぱいにのびのびと表現しようとする筆致には、強さと美しさが宿っていました。自分の目で見つめ、手で色を選び、一枚の画面に落とし込むというその行為そのものが、皆さんにとっての最大の「元気のひみつ」なのだと感じました。

絵の完成度や上手さといった指標を飛び越え、画面から「声」が響いてくる作品が多かったのも今年の特徴です。それらは皆さんが日常の中で見つけた、言葉にはできないけれど大切にしたい一瞬を、そのまま画面に映し出したものです。形にされたその「ひみつ」は、見る者の心を強く揺さぶり、明日を生きるための活力を分け与えてくれました。

皆さんが提示してくれた多様な表現は、そのまま「自分の中にあるエンジンを動かすための大切な手がかり」でもあります。このコンクールが、皆さんの描く喜びをさらに広げ、これからも自分だけのひみつを色鮮やかに更新し続けていく糧となることを願っています。

素晴らしい作品との出会いに、心から感謝いたします。

櫛野 展正(くしの・のぶまさ)

櫛野 展正(くしの・のぶまさ)

広島県出身。京都芸術大学大学院芸術研究科修士課程修了(MFA)。

2000年より知的障害者福祉施設で介護福祉士として勤務する傍ら、2012年から広島県福山市鞆の浦の「鞆の津ミュージアム」にてキュレーターを務める。2016年4月にアウトサイダー・アート専門スペース「クシノテラス」を開設し、独立。表現せずにはいられない人々に焦点を当て、全国各地で取材を行いながら、執筆や展覧会の企画・運営に携わる。

主な著書に『超老芸術』(ケンエレブックス)、『アウトサイド・ジャパン 日本のアウトサイダー・アート』(イースト・プレス)、『アウトサイドで生きている』(タバブックス)など。 2021年より「アーツカウンシルしずおか」チーフプログラム・ディレクターに就任。

2022年、総務省主催「令和3年度ふるさとづくり大賞」にて総務大臣賞を受賞。