対談

EY新日本有限責任監査法人
理事長
片倉 正美氏

多様な人財の育成がイノベーションを生み 日本企業を新たな成長へ導く

EY新日本有限責任監査法人
理事長
片倉 正美氏

EY新日本有限責任監査法人で理事長を務める片倉正美氏をお招きし、日本企業の成長や人財育成をテーマに当社代表取締役社長の小宮が意見を交わしました。
※BBSでは従前より人材を最も重要な経営資源だと捉え、"人財"と表記しています。

対談者様プロフィール

片倉 正美

1991年の入所後、多くの日本企業の監査に従事。テクノロジーセクターに対する深いナレッジを持つ。2005年から2年間、経済産業省で日本のIT政策の立案に携わった後、政府の委員を歴任。
2019年より現職。

すでにコロナ前の状況に戻った海外企業
日本企業はいち早く差を埋めることが急務


小宮
世界情勢はとても不安定な状況が続いています。こうしたなかで日本企業の成長には、どのような取り組みが必要だとお考えでしょうか。
片倉
新型コロナウイルス感染症の拡大にともなう出入国制限措置が緩和され、海外出張を再開して感じるのは、海外はすでにコロナ前の状況に戻っているということです。日本企業は、今この差を埋めないとグローバルポジションに影響すると危惧しています。
小宮
その差を埋めるためには、どのようなことが必要でしょうか。
片倉
世の中が大きく変化してしまったため、新しいビジネスをつくる、あるいはビジネスモデルを新しくするなど、会社を抜本的に変えることです。そのためにはイノベーションが必要であり、イノベーションにはテクノロジーが重要な役割を果たします。BBSグループが提供しているDX関連のソリューションは、日本企業の成長ドライバーになりますね。
小宮
当社グループは、2021年度にスタートした中期経営計画「BBS 2023」で「Make Hybrid Innovations」をスローガンに掲げて、お客様のイノベーションにDXで貢献することをめざしています。
片倉
DXに本気で取り組んでいる企業に共通しているのは「このままではいけない」という危機感です。社会が激変した今、取り組むべきことは、多様な人材のディスカッションから新しい気付きを導き出すことです。経営陣に加えて、若い世代や女性、外国籍の社員など、違った視点を持つ人たちがディスカッションすることで、イノベーションの芽が生まれてくると考えています。
小宮
シニア層の知見や経験に基づくアドバイスも、イノベーションを後押しすると、私は考えています。
片倉
おっしゃるとおりですね。若い世代のフレッシュなアイデアと、シニアの経験やビジネスセンスがうまく融合することで、イノベーションが生まれてくると思います。例えば、メタバースは、シニア層には理解が難しい世界かもしれません。それが、若い人たちに勧められてゴーグルをかけてみると新しい世界が体験できる。若い世代との間で新たな視点からのディスカッションが生まれ、これまでになかったビジネスの創出につながっている事例もあります。
小宮
当社では多くの知見や経験を持つシニア層に長く活躍してもらうために、定年を迎えた人財の雇用を1年単位で延長して、事業に貢献してもらう制度を整えています。
片倉
社会構造の変化を踏まえたすばらしい取り組みですね。シニアの知見を従来どおりの間柄で後輩たちに継承して、成長を支援してもらえるのは、企業にとってとても有効だと思います。

女性や若手など多様な人財の
成長・育成に必要な環境や制度とは


小宮
女性の活躍推進も多くの企業が重要なテーマとして捉えています。当社では2021年度に女性の社外取締役が1名就任しました。片倉さんは、2019年に大手監査法人で最年少かつ女性初のトップに就任され、活躍されています。その立場からの提言をお聞かせいただけますでしょうか。
片倉
大きな前進ですね。女性の活躍でもう一つ期待しているのは、内部昇格で役員に登用される女性が増えることです。そのために必要なのは経験です。例えば役員の補佐役に就けて、多くのことを学ばせる。経験を通じて実績を上げると、本人は自信を持ち、周囲も評価します。周りから認められることは、とても大切です。私自身、さまざまな業務に携わった経験がとても役に立っていますので、後に続く人たちに対して、同じような環境を提供していきたいと思っています。
小宮
経験は、確かに重要ですね。
片倉
私は経営層の方に、年齢や年功にかかわらず女性や若手を抜擢し、「チャレンジの機会を与える」ことを提案したいです。直属の評価者だけでは無意識のうちに女性にバイアスがかかった評価になりがちで、昇格や抜擢の候補に挙がらないことがあるからです。
小宮
若手人財の育成に関しては、どのように取り組まれているのでしょうか。
片倉
当法人では男女を問わずライフイベントに合わせてストレスなく働ける環境づくりに注力しています。その一つが、働く時間と場所を個人の裁量で選べる制度です。子どもの急な発熱など出勤後にプライベートで時間を使いたい時に仕事を中断できる「中抜け制度」も用意しています。
小宮
参考になる制度ですね。
片倉
もう一つ私たちの取り組みを紹介すると、昨年10月から「ファミリー制度」をスタートしました。コロナ禍でメンバー間のつながりが希薄になり、不安を感じる若手もいましたので、上位の管理職クラスが親役になって10名前後でファミリー(小集団)をつくり、メンバーの日々の悩みや相談などに対応する制度です。これまでよりきめ細かく対応してくれると好評です。
小宮
当社では、組織によっては若手の先輩社員が兄弟姉妹のような関係性で後輩の成長をサポートするブラザー制度を導入しています。若い世代には、人とつながる環境が大切ですね。

「心理的安全性」が保たれた環境で
互いを尊重しながらチームの目標を共有する


小宮
メンバー個々の思いを尊重することは、とても重要だと思います。その一方で、多くの企業がチームで業務を進めている現在、個々の思いとチームの目標を両立させることは簡単ではありませんね。
片倉
おっしゃるとおりです。ただし、メンバー全員がチーム目標を理解するとともに、お互いを尊重するコンセンサスが構築されていれば、十分に機能します。近年、「心理的安全性」ということがよくいわれますが、私は、誰もが自分の考えを安心して発言できるよう、「誰の意見でも耳を傾けて受け止め建設的な提案を行う環境をつくろう」と話しています。
小宮
すばらしい風土が根付いていますね。
片倉
それでも、業務負荷がかかり過ぎると機能不全を起こしますので、現場のがんばりに頼るのではなく、本部からのサポートも必要です。
小宮
労働人口が減少するなか、多くの企業で人財確保自体も大きな課題となっています。
片倉
当法人では、人をサポートするため、AIやRPAなどへの投資を加速して自働化を進めています。
小宮
各種ツールの採用で、監査の方法も変化しているのでしょうか。
片倉
人材が中心であることに変わりはありません。変わったのは、ツールを利用する技術と結果を読み解く能力が必須になったことです。
小宮
一部ではツールの登場で人は不要になるといわれていますが、人財をサポートするのがツールであり、主体は常に人財だと私も考えています。
片倉
そのとおりです。例えば、以前は人の作業の早さを評価することもありましたが、ツールに任せた方が早い作業も増えています。ですから、今後はツールで対応できるところは、極力ツールに任せて、リスクの見極めやお客様との調整など、人ならではの価値が発揮できるところへ評価の視点は移っていくと思います。
小宮
教育・研修も進められているのでしょうか。
片倉
人材育成プログラムも時代に合うよう内容を変え、さらに力を入れています。グローバルで実施しているEYのリーダー育成プログラムには、日本からも多くのメンバーが参加しています。日本独自でも、職階ごとのプログラムで、技術・スキルや監査に必要な知識の向上に努めています。
小宮
人財リソースが限られるなかでもプロジェクト品質を確保するために、当社ではこの2022年度、これまで取り組んできたシステム開発や運用などの「事後品質」だけでなく、コンサル領域における「事前品質」の強化にも力を入れています。品質に関するお考えや取り組みをお聞かせください。
片倉
当法人の品質、すなわち監査品質に関する定義は「プロフェッショナルとしてクライアントのビジネスを深く理解し、職業的懐疑心を持って、リスクに対応した深度ある監査を一貫して実施する」ことです。この定義をもう少しわかりやすく表現すると、「EY新日本が監査したのなら、この企業の財務諸表は安心できる」と、すべての利害関係者に確信してもらえること。これが、私たちのめざす品質です。

社会動向を的確に捉えて
お客様への貢献度を高め続ける


小宮
当社は、2030年までに「企業の総合バックオフィスサポーターになる」という目標を掲げて、その達成に取り組んでいます。また、今年は創業から55年目を迎えることから、他のボードメンバーと協力して“100年企業”への基盤をつくることが使命だと感じています。片倉さんは今後に向けて、どのような目標をお持ちでしょうか。
片倉
監査法人としてイノベーティブなリーディングカンパニーであり続けたいと思っています。また近年、多くの企業にとって財務数値だけでなく、非財務情報の信頼性をどう担保するかが大きな課題の一つとなるなか、私たちも専門領域を広げ、非財務情報保証や企業開示など、企業を支え、信頼性を担保する取り組みに積極的に関わっていきたいと考えています。
小宮
お話を振り返ると、環境が変化していくなかで、日本および日本企業が成長していくためには、イノベーションの実現が不可欠であり、世代や年齢に関わりなく社員の個性を尊重し、人財を育成していくことが何よりも大切だということがわかりました。いただいたご意見が経営に携わる皆様のご参考になれば幸いです。また、片倉さんには、さらなるご活躍を祈念しています。本日は貴重なお話をありがとうございました。