サステナビリティ情報開示:SSBJハンドブックの概要と実務上の影響(2025年8月)―移行計画と主要な仮定―

本コラムの要点

  • 移行計画の開示は単なる企業の目標ではなく、企業の戦略の一側面を表す開示である
  • 主要な仮定は規制、技術、経済、情報、気象などのさまざまな要素が関係する
  • 開示作成にあたっては「仮定の合理性」や「他の開示とのつながり」にも目を配る必要がある

はじめに

2025年8月29日にSSBJ事務局より公表されたSSBJハンドブック「気候関連の移行計画の作成に用いた主要な仮定」について文書の概要と実務対応を解説します。

1.文書の概要 ―移行計画と主要な仮定―

SSBJ基準は企業に気候関連の移行計画がある場合には、当該計画の作成に用いた主要な仮定を含む移行計画の内容を開示することを要求しています。ここで、「移行計画」とは、温室効果ガス排出の削減目標をはじめとした低炭素経済への移行に対する企業の目標や活動等を指し、企業の全般的な戦略の一側面とされています(気候関連開示基準 第5項(1))。本件SSBJハンドブックは当該開示要求のなかで言及されている「主要な仮定」の要素について以下のような例を示しています。

  • 規制:補助金制度、政府活動(温室効果ガス排出量の削減義務化)
  • 技術:低炭素技術、新素材の開発又は転換
  • 経済:資本及び借入コスト、金利動向、インフレ、需要予測、財務指標
  • 情報:資産の所在地、温室効果ガス排出データに関する情報の信頼性
  • 気象:気温変化、降水量、異常気象、気象変化の資産等への影響予測

※ SSBJハンドブック「気候関連の移行計画の作成に用いた主要な仮定」(pp.2-3)より加除修正

ただし、移行計画に関する主要な仮定は企業規模や業種(事業特性・産業特性)及び所在地により変化するものであるため、開示企業が低炭素経済への移行戦略をどのように位置付け、どのように策定しているのかに立脚して適切な仮定を識別することが重要となります。

2.実務影響 ―仮定の合理性と情報のつながり―

仮定の合理性

主要な仮定の開示趣旨は、主要な利用者が移行計画の信頼性の評価を行ううえでの基礎的な情報を提供することにあります(気候関連開示基準 BC67項)。つまり、主要な仮定が企業の実態に照らして妥当なものでなければ、移行計画自体の実現可能性が疑われることになり、ひいては、企業のサステナビリティに関する取り組みへの不信感につながりかねません。したがって、「移行計画の設定の意義」や「移行計画の前提として課題になると判断した要因及びその理由」について情報の主要な利用者が理解できるような開示とすることをめざしましょう。

情報のつながり

SSBJハンドブックは気候関連の移行計画に関する開示について、SSBJ基準の他の定めに従い開示される情報を参照する場合があることを示しています。例えば、当該企業が、気候レジリエンスの開示(気候関連のシナリオ分析及び気候レジリエンスの評価に関する開示)において、企業が事業を営む法域における気候関連の政策、マクロ経済のトレンド、国又は地域レベルの変数、エネルギーの使用及びエネルギーの構成、技術の進展、将来の市場規模等に関する予測を、主要な仮定として開示している場合、これらの開示を参照することができるとしています。
また、情報のつながりについて考えると、移行計画として温室効果ガス排出の削減目標について開示している場合には、スコープ別の温室効果ガス排出量の開示とのつながりを強調することがあり得ます。

  • 実務構築上の留意点:開示間で情報が参照される場合は各開示の担当者間の相互連携を強化しましょう(情報連携不足による参照先の欠如を防ぐ)

おわりに

移行計画と主要な仮定は企業戦略の一側面であるため、経営者をはじめ役員等の意思や決定が開示内容にも適切に反映されていなければなりません。開示担当者は単に決定された移行計画や主要な仮定を転記するのではなく、企業の戦略の意義と策定上の前提を理解したうえで開示を作成しましょう。

※当コラムの内容は私見であり、BBSの公式見解ではありません。