新会計基準対応支援
2027年4月から新リース会計基準が強制適用となります。適用に向けた準備において、多くの企業が「少額リースのオフバランス処理(賃貸借処理)」を最大限活用し、資産・負債計上額の抑制や実務負荷の軽減を図りたいと考えていることでしょう。
少額リースの判定には「契約単位」で判定する方法と「資産単位」で判定する方法の2つがありますが、とくに後者の資産単位での判定については、実務上の適用方法について検討の余地があります。本稿では、その考え方について深掘りしていきます。
実務的な対応を考える前に、少額リースの規定(リースに関する会計基準の適⽤指針 第22項)の内容を押さえておきましょう。
基準では、以下の(1)または(2)のいずれかを満たす場合、例外的にオフバランス処理(賃貸借処理)が可能です。
「重要性が乏しい減価償却資産について、購入時に費用処理する方法が採用されている場合」において、借手のリース料が基準額以下のリース取引はオフバランス処理(賃貸借処理)が可能です。なお、基準額は利息相当額だけ高めに設定することができます。
「企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリース」かつ「リース契約1件当たりの金額に重要性が乏しいリース」。
なお、「新品時の原資産の価値」による判定もありますが、本規定はIFRS(国際財務報告基準)を念頭に置いたものであり、本稿は日本基準を適用する企業を前提としているため、割愛します。
この規定を判定フローに落とし込むと、一般的に以下の2段階で進めることになります。
まず、前述の規定(2)に基づき「1契約当たりの支払総額」を確認します。これが300万円以下に収まっていれば、その契約ごとオフバランス処理(賃貸借処理)が可能ですので、まずは契約総額での判定が先になるでしょう。
問題は、STEP 1で「300万円超」となった契約です。この場合、契約全体をオフバランスにはできませんが、前述の規定(1)に基づき、契約のなかに含まれる「少額な資産」を資産ごとに見た場合に、部分的にオフバランスできる余地があります。
例えば、PCや携帯電話、情報機器、器具・備品など個々の物品一つひとつは少額であるものの、1つの契約で大量の物品を借りているパターンが想定されます。本稿では、このSTEP 2の実務対応に絞って解説します。
STEP 2の判定においては、原則論でいえば個々の物品について「リース料」と「非リース料(メンテナンス料など)」を分け、リース料部分のみが基準額を超えるかどうかで判定を行うことになります。
しかし、例えば通信費込みの携帯電話契約などの場合、請求明細などのデータが十分に保持されていないこともあり、1件ずつ厳密に料金を区分することは実務上困難なことが多いです。契約先に問い合わせるなど、時間を掛ければ可能かもしれませんが、実務上の負荷が大きく現実的ではありません。
そこで、実務負荷を軽減するために以下の2つのアプローチが検討されます。
適用指針第22項にある「基準額は利息相当額だけ高めに設定することができる」という規定を活用します。
リース料総額は「現金購入価額+利息相当額」で構成されると考えることができます。つまり、「現金購入価額(定価など)」自体が基準額を下回っていれば、利息を加えても基準額を超えない(=許容される利息相当額の範囲内である)と判断できる余地があると考えられます。
例えば、借りている物品について型番ごとの定価などを確認し、基準額を下回っているのであれば、個別のリース料計算を省略して当該物品を「少額リース」と判定する余地があると考えられます。
もう一つは、特定の物品(資産グループ)全体において、基準額を超えるものがほぼないことが分析などでわかる場合、そのグループ全体を少額リースとしてすべてオフバランス処理(賃貸借処理)できないか、という視点です。
こちらは企業の状況によって異なるため監査法人との慎重な協議が必要ですが、対象グループのなかで基準額以上の物品が「明らかに僅少」な範囲にとどまっており、当該物品をすべてオンバランスしたとしても企業全体の財務諸表に重要な影響を与えない程度の金額であれば、その物品グループをすべて少額リースとして処理する余地があると考えられます。
例えば、PCのリース契約において、通常の従業員が使うようなPCはほぼすべて基準額以下であるが、数件だけ情報システム部が使う基準額を超える高性能なPCが含まれるようなケースが想定されます。このように、高性能なPCを使うケースが限定的であり、その金額規模も大きくなく、オフバランスしても全体への影響が限定的であれば、PC全体を少額リースと判定する余地があると考えられます。
前述のアプローチをとった結果、契約に含まれる物品をすべて少額リースと判定できるのであれば、迷わず適用してオフバランス処理(賃貸借処理)すべきでしょう。
しかし、STEP 2の判定をした結果、例えば基準額が20万円未満の場合で「20万円以上の物品」と「20万円未満の物品」が混在してしまう契約はどうでしょうか。
少しでもオンバランス計上額を減らしたい場合は、「20万円未満の物品」だけを抜き出してオフバランス処理(賃貸借処理)を行う必要がありますが、この処理を行うかどうかはシステム運用や事務負荷を考慮しなければなりません。例えば以下の視点での検討が必要です。
多くのリース資産管理システムでは、「契約単位」で登録した場合、物品ごとにオンバランス処理とオフバランス処理を分ける機能がない(または複雑である)ことが想定されます。そのため、当該契約では登録単位を「物品単位」として、オンバランスする物品だけを登録するなど、システム登録の方法を工夫しなければならない場合があり、その対応が事務処理上の大きな負荷になる可能性があります。また、中途解約や条件変更のたびに物品単位での修正が必要になります。
前述のとおり、登録する物品を契約単位ではなく物品単位にした場合、リース資産管理システムによっては登録明細数の増加で利用料が増加するケースも想定されるため、そのような状況になっていないかは考慮に入れる必要があるでしょう。
貸手からの請求もしくは口座引き落としは通常「契約単位」で行われます。一方でシステム上では「リース負債返済と支払利息(オンバランス分)」と「賃借料(オフバランス分)」が混在することになり、支払時の消込処理が煩雑になる可能性があります。
少額リースの規定を積極的に適用することで資産・負債計上額を抑制でき、実務上の負荷軽減にもつながります。したがって、1つの契約におけるすべての物品を少額リースとして処理できるなら資産単位の基準も積極的に活用すべきです。
しかし、両者が混在してしまっている契約については、無理に分けて資産基準を適用するのではなく、一括してオンバランス処理するという判断も、システム運用を考えれば有力な選択肢になり得るでしょう。
監査法人と協議のうえ、物品や契約方法などの性質ごとに自社にとって「最もトータルコストが低い運用方針」を定めておくことが重要です。
新リース会計基準適用後にこれらの運用方針を変更することは容易ではありません。基準適用前の今の段階から、現実的に無理のない少額リースの適用方針を明確にしておく必要があります。正解は企業によって異なりますので、自社の状況に応じてベストな方法を選んでいきましょう。
サステナビリティ情報開示:SSBJハンドブックの概要と実務上の影響(2025年8月)―移行計画と主要な仮定―
サステナビリティ情報開示:SSBJハンドブックの概要と実務上の影響(2025年8月)―リスク・機会と戦略・意思決定の関係―
サステナビリティ情報開示:SSBJハンドブックの概要と実務上の影響(2025年8月)―重要性の判断―
サステナビリティ情報開示:SSBJハンドブックの概要と実務上の影響(2025年8月)―実務上不可能である場合―
経理マニュアルの必要性と作成・運用のポイント
新リース会計基準における購入オプションの取り扱い
新リース会計基準の経過措置への対応
内部統制の盲点:「本番データの直接修正」が引き起こす3つのリスク
温室効果ガス排出量算定後の次のステップ
SSBJ基準解説・実務対応 第4回―数値の表示に用いる単位―