サステナビリティ開示基準導入支援
2025年8月29日にSSBJ事務局より公表されたSSBJハンドブック「一般基準のレジリエンスの開示」について文書の概要と実務対応を解説します。
一般基準の第24項は「レジリエンス」を「サステナビリティ関連のリスクから生じる不確実性に対応する企業の能力」と定義しています。SSBJ基準は気候関連開示基準の第30項から第32項において気候レジリエンスの開示を要求するとともに、気候以外のサステナビリティ関連のリスクに関するレジリエンスについて、一般基準の第24項から第26項に基づき以下の開示を求めています。
期末日の戦略及びビジネス・モデルのレジリエンスについて以下を開示する。
SSBJ基準は開示内容に「手法」と「時間軸」を含むことを規定していますが、開示内容の詳細までは定めておらず、報告主体が企業の状況に合わせて開示内容を柔軟に決定することを期待しています。
重要なのは、SSBJ基準が「レジリエンスの評価」を開示へ対応するための固有の評価とは位置付けていない点です。一般基準のBC50項によると、当該評価は短期的にも中長期的にも以下のような企業の日常的な活動のなかで実施されているものとされているため、本件開示の作成のためには、下記に該当する企業のプロセスを特定するとともに、これらのプロセスがどのようにサステナビリティ関連のリスクを評価しているのかを理解することが必須となります。
| 短期 | 日常のリスク管理プロセス |
|---|---|
| 中長期 | 経営計画等の策定プロセス(リスクに対して戦略等の調整が必要かどうかの評価) |
なお、調査の結果として上記に該当する企業のプロセスが存在しない、又は、脆弱であることが判明した場合には、経営上のリスクが適切に管理できていないことを意味する可能性があります。
前述のとおり、定量的な評価の開示は単一の数値情報を示すほか、数値の範囲により示すことができるとされています。この点、SSBJハンドブックは、当該範囲の開示は想定されるシナリオのすべてを開示することを意図しているわけではないと述べています。すなわち、企業の見通しに影響を与えると合理的に見込み得るサステナビリティ関連のリスクに関する情報を提供することができれば開示要求を満たすため、あくまでも「影響規模」と「発生可能性」が合理的に高いと想定されるシナリオを考慮すれば足りるものと考えられます。
SSBJハンドブックは「レジリエンスの開示」と「現在の及び予想される財務的影響の開示」の違いを以下のとおり示したうえで、財務的影響の開示要求を満たすためにレジリエンスの評価を実施することは求めていない点を明確にしています。一方、予想される財務的影響を判断するにあたり、レジリエンスの評価を実施している場合には、当該評価の有用性及び関連性を考慮することがあるとしているため、双方の開示のつながりの有無を意識した開示対応が必要となります。
| レジリエンス |
|---|
| サステナビリティ関連のリスクやさまざまなシナリオにおける関連する不確実性の影響に対処し、耐える能力 |
| 現在の及び予想される財務的影響 |
| サステナビリティ関連のリスクと機会が、企業の財政状態、財務業績及びキャッシュ・フローに与える影響に関する情報 |
一般基準におけるレジリエンスの開示は、企業が気候以外のサステナビリティ課題を経営の文脈でどう捉えているかを示す重要な情報です。単に文書や数値を並べるのではなく、「企業が不確実性をどのように識別・評価しているのか」という事実を誠実かつ一貫性を持って説明することが、開示の質を高めることにつながります。
※当コラムの内容は私見であり、BBSの公式見解ではありません。
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