サステナビリティ情報開示:SSBJハンドブックの概要と実務上の影響(2025年8月)―実務上不可能である場合―

本コラムの要点

  • 実務上不可能との判断の根拠は恣意的なものであってはならない
  • 判断の根拠となる合理的な努力について説明可能性を確保することが望まれる
  • 実務上不可能との判断の妥当性の拠り所となるガバナンス・業務プロセスの整備が重要である

はじめに

2025年8月29日にSSBJ事務局より公表されたSSBJハンドブック「実務上不可能である場合」について文書の概要と実務対応を解説します。

1.文書の概要 ―実務上不可能とは―

本文書は過去数値の更新等の免除を認めている「実務上不可能」な場合が具体的にどのように判断されるのかについての情報を提供しています。ここで、「実務上不可能」という用語は「合理的な努力を行っても特定の定めに従うことができない状況」を意味しています。本件SSBJハンドブックは当該状況の例を示しており、これをまとめると以下のようになります。

  • 重要な過去の誤謬の訂正
    過去情報の訂正に必要なデータを収集しておらず、時間の経過により、もはやそれらデータが入手不可能な場合
  • 比較情報の見積りの更新
    新たな定義に従った遡及適用を行うために必要な粒度の過去のデータが収集されておらず、入手可能なデータを再分類及び再構成しても目的のデータへ加工できない場合
  • 当報告期間のスコープ3温室効果ガス排出の見積り
    1次データ及び2次データの双方が収集及び保存されていない場合(当該例示は非常に稀な場合と明記されているため、実務上許容されることはほとんどないと想定されます)

2.実務影響 ―業務上の整備―

前項の例示はいずれも必要なデータが入手困難であることを根拠としていますが、当該困難性が過大な労力及びコストが必要であることのみに支えられている場合には、実務上不可能とはいえないとされています。したがって、必要なデータが実質的に入手不可能であることの合理性や妥当性をいかに主張できるか否かが重要となります。
少なくとも、実務上不可能との主張を行う場合には、開示情報の作成基礎を正確かつ網羅的に入手することが実質的に不可能であることを社内の判断として合理的に文書化を行い、当該文書を開示責任者及び関連会議体が承認するガバナンスの整備が必要と考えられます。また、そもそも実務上不可能な状況が生じないように開示情報の基礎となるデータの保存と当該保存したデータへのアクセスが可能な体制を構築しておくことも重要です。

  • 実務構築上の留意点:判断根拠や承認の形骸化は避けましょう(内部統制の不備の危険性)

おわりに

開示実務は信頼性と透明性の上に成り立っていることがとくに重要であり、実務上不可能な場合の規定は「逃げ道」としてではなく、企業の説明責任と信頼性を担保するための「仕組み」であることを理解して運用しましょう。

※当コラムの内容は私見であり、BBSの公式見解ではありません。