サステナビリティ情報開示:SSBJハンドブックの概要と実務上の影響(2025年8月)―リスク・機会と戦略・意思決定の関係―

本コラムの要点

  • サステナビリティ関連のリスク及び機会は企業の戦略や意思決定に影響を及ぼす
  • 企業は意思決定にあたりサステナビリティ関連のリスク及び機会の間のトレードオフを考慮している
  • 企業が事業活動を継続するうえで依存している資源の形態は多種多様である

はじめに

2025年8月29日にSSBJ事務局より公表されたSSBJハンドブック「サステナビリティ(気候)関連のリスク及び機会が戦略及び意思決定に与える影響に関する開示」について文書の概要と実務対応を解説します。

1.文書の概要 ―資源とトレードオフ―

SSBJ基準は以下の4つの事項の開示を求めており、本件SSBJハンドブックは(2)と(4)の開示について参考となる情報をまとめています。

  1. 意思決定に係るサステナビリティ関連のリスク及び機会について、今までの対応方法と将来の対応計画
  2. (1)の対応を実行するために必要な資源の確保方法と確保計画(気候関連のリスク及び機会のみ)
  3. 過去の報告期間に開示した計画に対する進捗(定量情報と定性情報)
  4. (1)の対応を決定する際に考慮した、サステナビリティ関連のリスク及び機会のトレードオフ(相反関係)

(資源)

企業は自然、人工、知的、人的、社会的、財務的な種々の資源に依存していることから、これらの枯渇は事業活動の混乱をもたらす可能性がある一方、資源の再生及び維持は事業活動の安定的な成長につながることになります。つまり、企業が気候関連のリスク及び機会に対応するにあたって、依存する資源の確保は重要な要素であるため当該確保の方法や計画に係る開示が要求されています。

(トレードオフ)

サステナビリティ関連のリスク及び機会は企業の戦略や意思決定に影響を及ぼしますが、「リスク」と「機会」が相反する場合があります。例えば、雇用機会の少ない地域に大企業の工場が新設されることは、土壌や大気への環境負荷(リスク)が懸念される反面、当該地域の雇用拡大や経済の活性化(機会)をもたらす要因にもなります。つまり、企業はこれらのサステナビリティ関連のリスク及び機会の相反関係を考慮してさまざまな意思決定(例:特定地域への工場の新設)を行っているため、これらの考慮した関係を開示することが要求されています。

2.実務影響 ―開示対象の判断―

(資源)

前述のとおり、資源には多種多様な形態のものが含まれるため、企業が依存している資源を種類別に把握したうえで、過去に実施した、又は、これから実施する気候関連のリスク及び機会への対応に紐付く資源を特定することが開示の第一歩となります。

区分
自然資源水資源・エネルギー
人工・人的資源労働力・組織プロセス
知的資源技術・ノウハウ・データ
社会的資源顧客・取引先等との関係
財務的資源現金及び預貯金・土地

(トレードオフ)

サステナビリティ関連のリスクと機会の相反関係はすべての意思決定において発生するものではないため、次のように企業経営に関連する相反関係を把握したうえで、これらの相反関係と企業の意思決定を対応させることが重要です。

リスクと機会の相反関係(例)

リスク機会
工事新設にともなう大気及び生態系への負荷地域雇用の創出、地域経済の活性化
太陽光発電施設の建設にともなう土地利用脱炭素化

  • 実務構築上の留意点:把握している資源の種別や相反関係の変化に注意しましょう(企業内外の環境変化の反映)

おわりに

適切な開示を達成するためには、企業の「戦略」や「意思決定」に対応したサステナビリティ関連の「資源」と「トレードオフ」を網羅的に識別する仕組みが必要になります。企業が依存している「資源」の種類や「リスクと機会のトレードオフの関係」は内部及び外部の環境変化や時の経過にともない変化するものである点に留意しつつ実効性のある開示業務を構築しましょう。

※当コラムの内容は私見であり、BBSの公式見解ではありません。