キャリア自律を実現するために~役割等級制度の観点から~

近年、「キャリア自律」が重要視され、社員一人ひとりが自身のキャリアを自ら設計し、成長していくことが求められています。キャリアアップの選択肢が広がり、多様な働き方が期待されるなか、企業内でどのように将来的なキャリアを描いていくことができるかは社員にとってますます重要になっています。
しかし、その一方で、社内では「ほかの部門がどのような仕事をしているのかわからない」「異動の希望を持てず、自分のキャリアを描けない」といった声が多く聞かれます。

企業には、さまざまな業務を担う部門が多数存在しますが、自分が所属する部門や過去に経験した部門以外の業務について、社員がイメージできないケースが多いのではないでしょうか。
例えば、営業部門に所属している社員が、マーケティング部門や人事部門でどのような仕事が求められているのか、具体的にイメージできないことがよくあります。こうした情報の不足が、社員にとって異動やキャリアアップの選択肢を狭め、結果的に自部門のなかでキャリアの手詰まりを感じてしまう原因の一つとなり得ます。
社員が自分のキャリアを描くためには、自部門はもちろん、他部門で求められるスキルや仕事内容、そしてキャリアパスが明確であることが重要です。

このような課題に対して、企業はさまざまなアプローチを試みることができます。
例えば、社内交流イベントや研修を通じて、部門間の情報共有を促進する方法や、ジョブローテーションを活用して異動経験を積む機会を提供する方法があります。また、メンター制度やキャリアカウンセリングを導入することで、社員がキャリアに関するアドバイスを得やすくすることも有効です。

さらに、キャリアパスの明確化には、役割等級制度も有効な手段の一つです。
役割等級制度は、各部門で求められるスキルや業務内容が職種や役職、等級ごとに定義されているため、以下2つのメリットにつながります。

  1. 自部門で今後期待される役割や、成長するために必要なスキルが明確になる
    社員は、求められる役割や、自部門で成長するために必要なスキルを明確に把握できるため、自部門で描くキャリアに向けて、具体的に何を身に付けるべきかを意識しやすくなり、成長の道筋が見える化されます。
  2. 異動希望の部門の仕事内容や必要なスキルを把握できる
    各部門の役割が定義されることで、自分が興味を持つ部門の仕事内容や必要なスキルを把握しやすくなるなど、異動したい部門で求められる役割等級が明確に示されます。これにより、社員は異動を希望する部門で成功するために必要な能力を事前に理解でき、積極的に異動をめざしやすくなります。

役割等級制度を整備することで、社員一人ひとりの成長に向けた道筋がより明確になります。また、他部門でのキャリアパスが見える化されることで、社内における自分の将来を幅広く描くことができるようになります。これにより、社員のキャリア形成が促進され、企業内での人財の流動性が高まるなど、企業全体の柔軟性と成長力が向上することが期待されます。結果として、役割等級制度は、社員の満足度向上と企業の競争力強化に寄与する重要な要素となることでしょう。