人事評価におけるAIの活用を考える

「自分の仕事を見ていない上司に評価されるのは納得いかない」。
テレワークなど時間や場所に制約されない働き方が広がるなかで、多くの企業の社員から聞く不満の声です。

人事領域におけるAIの活用が広がり、「評価」においてもAIを活用する企業が増えてきました。
コールセンター業務を行うある企業では、オペレーターの評価を、顧客からのアンケートや数件の通話記録の内容を収集して行っていたそうですが、これをAIの活用で通話記録全件を対象とし、オペレーターの対応が顧客の課題解決に結び付いているかの分析を行ったところ、これまでの上司評価とほぼ同様の結果が得られたとのことです。評価までのアルゴリズムに過去の評価エラーなどが組み込まれていないかなど、継続的に監視して改善を加えることは必要ですが、上司がつねに把握することのできない大量のデータに基づき客観的な評価事実を提供するという面においては、評価におけるAIの活用は今後も拡大するのではないでしょうか。

しかし、AIで客観的な事実が把握できたとして、上記の社員側の不満は解消されるでしょうか?
「AIによるとあなたの〇〇業務の評価は最低の●●です」などと言われても、納得できる人は少ないでしょう。
評価という行為は、PDCAにおけるC。つまり、チェックに過ぎず、次のアクションにつながらなければ、納得性を高めることはできません。そのためには、評価される側も制度を理解し、部下自身が評価プロセスに参画する仕組みとならなければ、評価に関する納得性は高まりません。
AIを活用し客観的な事実を収集できた場合でも、被評価者自身がその事実に基づき自省を行い、自身の課題を整理したうえで、上司と今後の課題解決や成長に向けて話し合う場を設けることが重要です。
評価制度は、評価基準や評価ルールが整備されているだけではなく、適切に運用できる仕組みになっていなければなりません。

ジョブ型人事制度への移行が進むなか、評価制度は、客観的な評価事実の収集にとどまらず、社員を育成し、活用し、リテンションするための人財マネジメントサイクルを生み出すための仕組みとしての重要性が高まっています。

最近は、評価制度に基づく面接の場面でもAIにその記録を分析させ、面接のバラつきの是正につなげるなど、今後いっそう評価におけるAIの活用分野は広がることが予想されますが、AIは評価制度を正しく運用するための補助ツールであることを忘れてはなりません。
効率的かつ効果的に評価制度を運用するためには、評価者のみならず被評価者も評価という仕組みの目的を理解し運用スキルを身に付け、コミュニケーションを通じてPDCAサイクルを活用していくことが重要だと思います。