人的資本経営:成功企業に学ぶ“人への投資”の実践

人的資本経営という言葉が広まり、多くの企業がその対応に乗り出しています。とくに人的資本の情報開示が義務化されたことで、エンゲージメントスコアや研修時間、離職率などの指標を整備し、外部に公開する動きが加速しています。ただし、こうした対応が「開示すること」自体を目的化してしまい、本質的な人的資本経営の実践には至っていないケースも少なくないと感じます。

人的資本経営とは、単に人財に関するデータを開示することではなく、人財を企業の成長を支える「資本」として捉え、戦略的に活かしていく考え方だとされています。では、実際にこの考え方を経営に取り入れ、成果につなげている企業は、どのような取り組みをしているのでしょうか。

大手メーカーA社では、社員の自律的な学びを支援するために、独自の学習プラットフォームを導入しています。社内外の多様な学習コンテンツを活用できるこの仕組みにより、社員は自分のキャリアに必要な知識やスキルを主体的に身に付けることができるようになっています。
また、社員の活力や成長意欲を可視化するために、エンゲージメント調査を実施し、職場ごとの課題を明らかにしたうえで、改善に向けた対話や取り組みを行っています。
さらに、社員のスキルやキャリア情報を一元管理するタレントマネジメントシステムも導入しています。これにより、社員同士が互いの専門性を把握しやすくなり、プロジェクトや異動のマッチングにも活用しているようです。経営層が人財情報にアクセスできることで、将来の幹部候補の育成にもつながっていると考えられます。
これらの取り組みは、単なる制度導入にとどまらず、社員の自律性を尊重しながら、経営戦略と人財戦略を連動させる人的資本経営の実践例として注目されています。制度の整備だけでなく、その実践を通じて企業文化そのものを変えていこうとする姿勢が、成果につながっているように感じます。

人的資本経営は、すぐに成果が出るものではないかもしれません。しかし、まずはエンゲージメント調査の導入や学習支援制度の整備など、小さな一歩から始めることはできるのではないでしょうか。重要なことは、経営層が人財を「資本」として捉え、継続的に投資していく姿勢を持つことだと考えます。
人への投資は、短期的な利益を生むものではありませんが、社員の成長が企業の成長につながるという信念のもと、人的資本経営を実践する企業は、未来への競争力を着実に高めているように思います。今こそ、自社の人財戦略を見直し、「人を活かす経営」へと一歩踏み出す時ではないでしょうか。