AIとともに働く組織へ:人事制度から始める価値領域の再定義

生成AIの先進国であるアメリカでは、AI導入を背景とした若手社員のリストラや採用抑制の動きが見られるそうです。生成AIの進化により、「今後5年で業務の半分以上がAIに代替される」という予測が語られ、雇用全体の4分の1がAIに置き換わる可能性も指摘されています。人手不足の世の中において、企業のAI導入は、ますます優先度の高い課題となると予測されます。

皆様の企業でも、AI導入の重要性は議題に上がっているのではないでしょうか。一方で、実際の業務代替まではなかなか進まないという実情を抱える企業も少なくないのではないでしょうか。このようなケースで多くの企業が抱える本質的な課題は、「AIに何を任せ、何を社員が担うべきか」という役割分担が曖昧なままになっている点にあります。

AI活用が進まない理由として、ツールの理解不足が挙げられることもありますが、実際には「仕事のどの部分をAIに委ねるのか」「社員が発揮すべき価値は何か」を組織として明確に言語化できていないケースが大半です。そうなると、AI活用は個人レベルの努力に依存し、属人的な取り組みにとどまってしまいます。

この役割分担の曖昧さは、人事制度の見直しにもつながっています。従来の等級制度は「経験・知識・業務遂行能力」を基準としている企業が多いですが、AIの登場により、これらの多くがAIに置き換わる可能性が出てきています。それにもかかわらず、新しい時代における各等級の役割や、人ならではの価値創出の期待水準が再定義されていないため、採用、配置、育成といった人財戦略が本来の目的を果たせなくなっています。

この状況を打開するために、まず着手すべきは「社員が担う価値領域」の明確化です。具体的には、以下の領域が挙げられます。

  1. 創造・企画などの0→1の発想
  2. 顧客や現場との関係構築など対人価値の創出
  3. 優先順位判断や意思決定
  4. 曖昧な状況での課題発見・問題設定

これらはAIの進化が進んでも代替されにくい領域ですが、多くの企業では人事制度に落とし込む段階まで至っていません。人財とAIの共存のためには、これらのポイントを以下の人事制度の根幹に組み込むことが重要です。

  1. 等級制度(役割定義)

    各等級が担う価値領域を言語化し、「AIが担当する業務」と「人が担う価値創出業務」を役割要件として明確にします。これにより、AI時代における職責や期待行動が明確になり、迷いのない配置や育成が可能になります。

  2. 評価制度

    等級制度で定義した役割を評価基準に落とし込むことで、AIに代替されやすい成果だけで評価するのではなく、人ならではの価値を適正に評価できる仕組みを構築します。

  3. 人財育成(採用と育成)

    等級制度における役割ごとに、AI活用に必要なスキルと、人が発揮する価値を高めるスキルの双方をバランス良く育てる計画を実行します。さらに、中長期の組織像に基づき求める人財像を再定義することで、将来的な人財採用にもつながります。

AIによって仕事が大きく変わることは間違いありません。しかし、導入のスピードに不安を感じる企業こそ、社員の価値領域を丁寧に整理し、等級・評価・育成を一体で設計することが求められます。

何をAIに任せ、どこに人財投資を行うか。その方向性が定まって初めて、AI導入も人財育成も企業内で筋道が通るようになります。人とAIがともに価値を生み出す組織づくりに向け、ぜひ自社の人事制度見直しにも目を向けていただければと思います。