新型コロナウイルス「オミクロン株」の感染拡大で、今年も先行き不透明なスタートとなりました。さて、新年にあたり、今回は春闘について記載します。

今年の春闘については、連合はベースアップ2%を掲げ、岸田政権も賃上げに対する税制支援強化を検討するなど、政・労・使のうち、労だけでなく政も賃上げを促進する構図となっています。2021年度の賃上げ実績は1.86%となったことから、2%台への回復が今年の焦点になると思われます。

このような状況下、私は今年の春闘について、慎重な対応を継続すべきだと考えます。以下、理由を述べます。
労働条件は、企業の実力(収益性、生産性)や労働の需給などで決まります。また、日本は輸出・輸入依存度それぞれについて、14%前後という一定の水準にありますので、海外の状況も含めて考える必要があります。
統計上の数値を検討してみますと、

  1. 平均年収は、38,515ドル/35カ国中22位(2020年OECDデータ)。また、その変化率を見ると、30年前と比較して104%という水準です(米国:147%、英国:144%、フランス:131%、韓国:192%)。これらのことから、賃上げの必要性が見てとれます。
  2. 一方、1人当たりの労働生産性は、78,655ドル/38カ国中28位(2020年OECDデータ)となっており、米国(141,370ドル)、ドイツ(107,908ドル)、英国(94,763ドル)、韓国(83,373ドル)に後れをとる状況です。
  3. また、失業率については、2.7%/39カ国中38位(2021年OECDデータ)と、先進国中でトップクラスの低さとなっています。<米国(4.2%)、ドイツ(3.3%)、英国(4.2%)、韓国(3.1%)>

以上より、平均的な日本企業の置かれた状況は、

  1. 賃金水準としては、賃上げ余地があるといえそうですが、
  2. 生産性は後れをとっており、
  3. 失業率の低さは先進国中トップクラスであり、労働需給がひっ迫しているようにも見えますが、日本では充実した労働者保護法制・政策がとられていること(解雇権濫用法理、終身雇用制、定年延長・再雇用、不利益変更の禁止、雇用調整助成金、その他コロナ関係助成金など)を考えますと、必ずしもそう解釈できない状況です。

したがって、個別企業において、上述した状況と異なる優位性があれば、それは積極的に春闘に反映していただきたいと思います。ただ、そうでなければ安易な賃上げは、競争力を低下させる危険があります。むしろ今年は、企業の技術・ノウハウの流出を防ぎ、社員の失業にともなう痛みや不安を防ぐ、人財の確保に最優先で取り組むべきではないでしょうか。

コロナ禍の状況の不透明さが続く今春闘。人財を大切に、春闘は慎重に、と申し上げて結びといたします。