海外子会社における内部統制の充実とコミュニケーション

海外子会社管理を考えた場合、「しっかりした内部統制の構築」と言うキーワードが浮かんできます。

海外子会社は製造拠点か販売拠点である場合が多いかと思います。
例えば製造拠点であれば、日本人の社員は必然的に工場出身者で占められ、管理部門は現地の人に任せ、製造拠点としての質の向上のために力が注がれます。また、管理部門のことはよく分からないこともあり、管理部門の管理・統制と言う視点が疎かになりがちです。
そのため、経理マネージャー・総務マネージャーといった立場の人が、不正を容易に実施しやすくなります。
例えば、会社の預金を個人で勝手に解約して自分の懐に入れたり、従業員の経費精算額からピンハネしたり、社用車を安値で販売し業者からキックバックを受けたり、といった事例に実際に直面しました。
監査法人監査で発見されることもあるかと思いますが、監査法人とのコミュニケーションを管理部門任せにしている場合、当該情報が日本人社長まで伝達されない事が散見されます。
こうした事態を避けるためには、社員・取引先(監査法人含む)とのコミュニケーションを密にすることが重要であり、そうする事で不正の兆候をいち早く発見できます。

私も以前、海外子会社で決算業務改善のコンサルティングをしていた時に不正に直面し、対応方法に悩んだ経験があります。日本人上層部に言っても「そんなことするわけない」と言う雰囲気でした。私は外部のコンサルタントでしたので、当然、警察権限・調査監査権限もありません。そこで、当該マネージャーと直接対決するのでは無く、シニアマネージャーを採用して、不正をしているマネージャーを管理してもらうという方法を提案しました。
事態がどうなるか気を揉みましたが、当該マネージャーは、シニアマネージャーの採用を伝えた翌日に退職しました。
その国では、会社のお金を横領しても、少額であり定期的に返金すれば、現実的には逮捕されることはないという社会的背景も影響していたようです。

このマネージャーが横領にいたった動機は明確にはわかりませんでしたが、作業にミスが多くよく日本人社長に注意を受けていたようです。しかし、彼は転職したばかりであり、また会計システムの残高データがそもそもバランスしていないまま彼に業務が引き継がれるなど、作業のインフラが整っていない状況の中で、不満が溜まっていったことも、不正のトライアングルの1つである「正当化」につながったのかもしれません。

会社で会う彼はいつも笑顔で、「俺は日本系の会社好きだ」と言っていましたが、たまに「俺は一生懸命やっているのに、上長は評価してくれない」と真顔で怒っている時がありました。おそらくどちらも彼の本心であったと思いますが、不満が募るにつれ、後者が勝ってしまったのではないでしょうか。

特に海外子会社においては、自分たちの日本での常識を取り払い、相手の目線でコミュニケーションをとる。こんな地道なことが、「しっかりした内部統制の構築」の第一歩かもしれないと思っています。