早期にIPOを成功させる会社の条件とは

現状、収束が見えないコロナ禍ですが、IPOは活況です。東京証券取引所のIPOの件数は2019年90社→2020年102社と増加しています。また、この原稿を書いている9月上旬には、10月までに102社の上場が完了または予定され、昨年以上のIPOが見込まれます。一方、大手監査法人はIPOを巡る規制の厳格化、公認会計士の不足、IPO監査業務の報酬とコスト、リスクのバランスなどを踏まえて、IPO監査を積極的に手掛けにくい状況にあると考えられます。このため、主に準大手や中規模監査法人がその引き受け手となっていますが、それでも足りず、一部の会社はIPO監査難民となっている状況です。当社にも監査法人を紹介してほしいという依頼が増えてきています。
このようななか、一刻も早くIPO監査を引き受けてもらうことが、早期にIPOを成功に導くと考えられるため、筆者の個人的見解から、監査を引き受けやすくなる、2つの条件を以下に述べたいと思います。

1.経営者の誠実性とコンプライアンス体制

上場すると株式は証券市場において広く一般投資家の間で売買され、利害関係者が増加することから、企業の社会的責任や経営者の経営責任がよりいっそう求められます。そのため、経営者には高い誠実性に基づく自社のコンプライアンス体制を構築する必要があります。私はIPOに際しては、この経営者の誠実性とコンプライアンス体制が最も重要であり、必須であると考えています。とくに近年では、「反社会的勢力との関係を排除する体制構築」「社会保険の加入状況」「未払い賃金の是正」などの点についても証券会社の引受審査や証券取引所の審査において厳しく見られる点に留意が必要です。

2.内部管理体制の早期構築

IPOにあたっては、求められる内部管理体制の早期構築もポイントとなります。具体例にはきりがないのですが、一例を挙げると、まずコーポレートガバナンスの観点から、取締役会、監査役会などの必要機関の設置、内部監査部門の設置、会計監査人の選定が求められます。次に、会計処理基準の整備を行うとともに、利益管理体制の整備や、適時開示に対応する決算の早期化が求められます。これらに加えて、内部統制の構築や、監査対応、膨大な上場申請資料の作成を早期に行う体制を構築する必要もあります。
これら課題に対応するためには、過去にIPOの実績があるメンバーを採用したり、必要に応じて当社のような外部専門家を活用したりすることが有用です。

最後に、経営者は事業の成長に意識を集中しているため、どうしてもコンプライアンス体制や内部管理体制を後回しにしてしまう傾向があります。一方、いざ体制を構築するとコストが大幅に増加し、想定した利益が出ないなどの問題が見受けられます。早いタイミングでコンプライアンス体制や内部管理体制を構築し、その体制のなかで利益を出せる状況に持っていくことが、早期の監査の引き受けにつながり、IPOを成功に導くことが可能になると考えます。