新収益認識会計基準のキーコントロール設定の実務

収益認識会計基準等が2021年4月1日開始の連結会計年度または事業年度の期首に原則適用を迎えています。この収益認識会計基準等は、会計基準の特性から、従来の内部統制を見直したり追加したりする必要があり、内部統制報告制度(J-SOX)が適用される企業には、いわゆる3点セットに反映していただくことが必要になります。

内部統制の見直しにあたっては、まず重要性に応じて全社的な内部統制・業務プロセスの評価対象を決定します。業務プロセスのうち評価対象となる財務報告の信頼性に重要な影響を与える内部統制(いわゆるキーコントロール)は、企業の属する業界の取引慣行、内部管理体制などに左右されるため、以下のような特徴を有する状況によって対応が相違します。

本コラムでは、取引の都度、事前に不備の発生を防止する「予防的統制」、および取引の記録後、事後的にまとめて不備の発生を発見し修正する「発見的統制」という観点で、設定すべき取引の特徴を例示しました。

予防的・発見的統制を設定する取引の特徴の例示

予防的統制を設定する取引の特徴 発見的統制を設定する取引の特徴
収益認識の単位
ステップ1
ステップ2
  • 契約内容や義務が定型的でなく、取引の都度、履行義務の識別や本人・代理人の判定が必要とされる取引
  • ソフトウェア開発会社や工事会社など業界の特性上、契約変更や契約の結合などの判定が必要とされる取引
  • 履行義務の内容が定型フォーマットで管理されており、定型外は法務部門を経ていることから申請リストの閲覧で履行義務の識別が判定可能な取引
  • 決算日ごとに、ポジションペーパーに記載済の内容が、現在の取引・契約内容と相違していないことを営業部門に確認する統制
収益認識の金額
ステップ3
ステップ4
  • 取引条件に変動対価が含まれており、取引ごとに金額の見積りが必要な取引
  • 複数の履行義務があることによる独立販売価格を算定する必要がある取引
  • 重要な変動対価の見積りがあり、見積りと事後結果の差異分析が必要な取引(営業部門で差異分析を行い、経理部門がその分析結果を確認する統制があり、経理部門の確認をキーコントロールに設定する場合)
  • 営業施策で管理されている特別な値引き施策が、顧客に支払われる対価に該当する取引
収益認識のタイミング
ステップ5
  • 顧客の検収日一覧をEDIで入手し、当該検収日付を一時点で充足される履行義務として自動仕訳を起票する取引
  • 一定の期間にわたり充足される履行義務に該当する重要取引があり、進捗率を合理的に見積もる必要がある取引
  • 小売業で定型的な取引しかなく、毎月、収益の金額が確定する取引

上記のとおり、取引の都度、判定(予防的統制を設定)をしなければいけない環境・内部管理体制であるか否か、取引の記録後、事後的にまとめて判定(発見的統制を設定)すれば問題ない環境・内部管理体制であるか否か、によって必要な内部統制が異なります。キーコントロールの設定にあたっては、必ずしもすべての取引に対して逐一5ステップに準拠しているかチェックすることは必要でなく、財務報告リスクを十分に低減できているかに着目して決定すれば十分と考えられます。
なお、キーコントロール設定時には、有効性・効率性の観点から監査人の認識と相違がないかどうかを確認しておくことが望ましいと考えられます。