経理業務の棚卸しと経理規程などの策定

はじめに

皆さんは会社の「経理規程」を読んだことはありますか?
経理規程は会社が採用した会計方針など、会社の経理に関する基本方針、手続きや処理の方法などを規定した社内ルールをいいます。経理規程は会社全体として経理業務のルールを定めたものですので、経理部門だけではなく、経理以外の部門に対しても周知を図る必要があります。また、連結財務諸表を作成するにあたり、同一環境下で行われた同一の性質の取引などについて、親会社および子会社が採用する会計方針は原則として統一しなければならないとされています。そのため、例えば、以下のような場合には経理規程の策定・見直しが必要になります。

  • 会計基準の新規制定、改定があった場合(例:収益認識基準の制定、新リース会計基準の制定など)
  • 新たに子会社を設立(取得)し、グループ間で会計方針などを統一する場合
  • グループ会社に親会社の経理規程を展開するにあたって、グループ会社が小規模なため、必要最低限の規定に絞りたい場合
  • そもそも、経理処理の適否の判断基準となる経理規程がない場合(内部監査などに際して必要になる)

上場企業は経理規程の整備が求められますので、株式上場をめざす企業では策定が必須です。一方で、法令で策定が義務付けられているわけではありませんので、経理規程を策定していない企業も見受けられます。しかし、上記のとおり、経理規程は会社の経理に関する基本方針などを定めたルールであり、内部監査などの適否の判断基準にもなりますので、きちんと策定し、社内に周知すべきと考えられます。

当コラムでは、経理規程策定の手順および経理規程における留意点について簡単に説明します。

経理規程策定の手順の例

  1. 経理業務の棚卸し
    経理規程の対象となる経理業務は金銭の取り扱いや、決算処理、予算編成など非常に広範にわたります。そのため、経理規程の策定にあたっては、まず、自社の経理業務としてどのような業務があるか棚卸しを行います。棚卸しにより、どのような経理業務をどのようなルールで処理しているかを把握します。
  2. 経理規程の目次の作成
    経理業務の棚卸しにより、会社の経理業務について把握したら、経理規程の目次を作成し、各経理業務についてどの順番で規定するかを決定します。経理規程の目次を一から作成することは難しいため、一般的には経理規程の雛形を参考にします。
  3. 経理規程に規定する内容と経理マニュアルなどに記載する内容の識別
    経理規程は経理に関する基本方針などを定めるものですので、仕訳の会計システムへの入力手順など詳細な業務処理ルールは経理マニュアルなどに記載します。そのため、経理規程にどの内容をどのレベル感で記載するかを検討し、経理規程にて規定する内容と経理マニュアルなどに記載する内容の識別を行います。
  4. 経理規程の条文の作成
    経理規程にて規定する内容を決めたら、規定する各条文を作成します。規定する条文についても雛形を参考にすると容易に作成できます。会計基準などにおいて複数の会計方針など(例えば、固定資産の減価償却方法など)が定められており、会社がそのなかから選択できる場合、会社としてどの方針を採用するかを決定し、採用した方針を経理規程に規定します。
  5. 全体を見直す
    経理規程の各条文まで作成したら、全体を見直し、規定内容が適当か、記載レベルは妥当か、規定すべき事項をすべて網羅しているかなどをチェックし、関係者のレビューを受けます。
  6. 経理規程として決裁を受ける
    最後に社内の決裁規準に基づき、経理規程の決裁を受け、社内に周知します。

経理規程における留意点

  1. グループ内における会計方針の統一
    子会社や関連会社があり、連結財務諸表を作成する場合、同一環境下で行われた同一の性質の取引などについて、親会社および子会社が採用する会計方針は原則として統一しなければならないため、経理規程の内容は子会社においても同じルールを適用する必要があります。
  2. 経理規程の定期的な見直し
    経理規程は一度策定したら終わりではなく、新たな会計基準などが制定され、新たに経理業務のルールを定める場合には見直しが必要になります。

おわりに

経理規程は雛形を利用することで作成が容易にはなりますが、例えば、以下の点に関して注意が必要です。

  • 規定すべき内容に漏れがないか
  • 会計基準や会社法、税法などの関連する法令を正しく解釈し、それらと整合がとれた社内ルールとして規定されているか
  • 経理規程だけでなく経理マニュアルなども併せて策定する場合、両者に記載する内容の識別がきちんとできているか
  • 経理規程、経理マニュアルなどを作成するためのリソースは足りているか

これらに注意しながら経理規程を策定しなければならないため、必要に応じて、会計基準などに関する専門的知識を有し、経理規程などの策定経験のある外部専門家を活用することも考えられます。