新収益認識基準対応コンサルティング
2020年10月に我が国が公表した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」に沿うように多くの企業が2050年に向けた温室効果ガス排出量の削減目標を投資家や一般消費者へ公表しています。当該目標は温室効果ガス排出量のScopeごとに中期目標(2030年)と長期目標(2050年)などの段階に分けて設定されている場合があり、このような企業は中期目標の期限まで約5年間に迫っています。本コラムでは、温室効果ガス排出量の削減目標を達成するために企業が理解しておくことが望ましいカーボン・クレジットと削減目標との関係をSSBJ基準の規定を交えて解説します。
温室効果ガス排出量については、2025年3月5日にサステナビリティ基準審議会(SSBJ)が公表したサステナビリティ開示基準(以下、SSBJ基準と表記)でも温室効果ガス排出の絶対総量を開示することが定められています(気候関連開示基準 第47項)。ここで、絶対総量とはオフセット前の温室効果ガス排出量を意味しており、例えば、カーボン・クレジットによる温室効果ガス排出量への緩和量を相殺する前の排出量をいいます(気候関連開示基準 BC110項)。これに対して、企業が温室効果ガス排出量の削減目標として設定していることの多い「カーボンニュートラル」や「ネットゼロ」は温室効果ガス排出量を実質的にゼロにすることを意味しているため、前述のカーボン・クレジットや緑化による二酸化炭素の吸収量を加味することが可能です。つまり、SSBJ基準に基づいて開示される温室効果ガス排出量にはカーボン・クレジットをはじめとした緩和策の結果を反映することはできませんが、企業が公表した削減目標で使用する「削減率」や「排出実績」にはこれらの結果を反映することができます(削減目標が絶対総量で設定されている場合は除きます)。
前述の理解に基づくとカーボン・クレジットなどの緩和策を積極的に使用したいと考えるかもしれませんが、企業が排出する温室効果ガス排出量は緩和策の効果と比較して規模が大きいことが考えられるため、緩和策のみですべての温室効果ガス排出量をネットゼロとすることは困難です。ゆえに、企業は重要な温室効果ガス排出量の源泉となる活動に対しては直接的な削減策を講じて「活動量」や「排出原単位(排出係数)」をゼロに近づける努力を行ったうえで、削減が追い付かない部分に対して緩和策を適用することになります。言い換えると、企業は自身のバリューチェーン上のいずれの活動が重要な温室効果ガス排出量を生じさせるのか、および、削減策を講じたうえで削減が追い付かない部分と規模はどの程度なのか(カーボン・クレジットの必要量)を把握するとともに削減計画に反映することが望まれます。また、大規模な企業を中心に複数の企業が同様の状況(削減不足)に直面することが想定されるため、カーボン・クレジットの高騰を想定して購入予算を確保することが重要です。
中期目標の基準年を2030年に設定している企業は達成期限を約5年後に控えています。こうした企業の担当者は、削減計画を達成可能なものとするために足下の削減実績や削減施策の進捗度と削減計画との差異を把握するとともに、削減不足が見込まれる場合にはこれに対応した緩和策の設定と予算の確保に動き出すことが必要です。なお、カーボン・クレジットの調達にあたっては信頼性の担保されたクレジットは有限であることを認識したうえで、過度にカーボン・クレジットに依存した削減計画とならないようにご注意ください。
この点、BBSはSBTi「1.5℃目標」の認定を受けており、温室効果ガス排出量の削減に積極的に取り組んでいます。プライム上場企業として培ったナレッジを用いた実践型のコンサルティングを提供することができますので、温室効果ガス排出量の削減への取り組みについて不安がありましたら遠慮なくご相談ください。
カーボン・クレジットとは省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用による二酸化炭素の排出削減量、および、適切な森林管理による二酸化炭素の吸収量をクレジットとして取引を行う場合の当該クレジットをいいます。日本には国がクレジットの認証を行うJ-クレジット制度が存在しており、東京証券取引所が開設しているカーボン・クレジット市場が取引市場として機能しています。
※当コラムの内容は私見であり、BBSの公式見解ではありません。
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