• コロナ禍の第二波、第三波がどうなるのか、ワクチンが開発され、新型コロナウイルス感染症がインフルエンザと同じような存在になるのか、現時点では予測が難しいのですが、少なくとも日本企業における従業員の働き方は大きな転機を迎えることになるでしょう。
  • 昨年、経団連会長やトヨタ社長による「終身雇用制を維持するのは難しい」という趣旨の発言が注目を集めました。終身雇用なのだから、企業の業務命令に従って、転勤するのは企業人として当然であるというのが日本企業の従業員の基本認識でした。独立行政法人の労働政策研究・研修機構が2017年に発表した資料によると、正社員数の規模別でみた場合、1000人以上の企業では「ほとんどが転勤の可能性がある」との回答が5割に達しました。しかし一方で、人材サービス大手のエン・ジャパンが2019年10月に公表した調査では「転勤が退職を考えるきっかけになる」との答えが6割に上っています。
  • 転勤に関する企業の論理と従業員の本音には隔たりがあります。企業の論理としては、「社員の人材育成」「社員の処遇・適材適所」「組織運営上のローテーションの結果」「組織の活性化・社員への刺激」「事業拡大・新規拠点立ち上げに伴う欠員補充」などが上位から並びますが、従業員の本音は「結婚しづらい」「子育てしづらい」「看護しづらい」「持ち家を所有しづらい」などとなります。辞令から短期間で異動しなければならない、家を建てたら転勤になった、などという話はしばしば耳にします。リクルートワークス研究所の2019年の推計では、直近に転勤を経験した正社員のうち家族帯同は約4割とのことでした。これは企業と従業員のWIN-WINの関係と言えるでしょうか。
  • 完全テレワークの採用を開始した企業もでてきました。テレワークはおそらく雇用の流動化を高めるでしょう。終身雇用の終わりとともに転勤が過去のものになる、という考え方もありますし、組織の強化のためには「テレワークでのコミュニケーションだけではカバーし切れない。異なる考え方や背景を持ったものの交流や討議がなければ新しいことを創り出すことは難しい。」との従来からの考え方にも一理あります。
  • ”転勤可能だから正社員・基幹社員”はそろそろ通用しなくなりつつあり見直しが必要です。AIG損保の約4000人の従業員(管理職含む)を対象とした調査結果では、「場合によっては転勤してよい」が約3割、「希望エリアで働きたい」が約7割でした。まずは優秀な人材の流出防止のためにも、自己申告書などで、従業員が転勤可能な状態・志向にあるのか否かを毎年モニタリングすることを推奨します。転勤における企業と従業員のWIN-WINのマッチングに、まずは企業が真剣に取り組む必要が高まっています。