人事制度構築支援
採用活動の現場では、「オヤカク」という言葉が注目されています。これは、親の了承がなければ子どもが内定を承諾せず、親の反対によって内定辞退に至る現象を指します。こうした傾向を受け、企業は内定者本人だけでなく、その家族にも会社の方針や職場環境を丁寧に伝える取り組みを進めています。実際に、家族を企業説明会に招いたり、親向けの資料を配布したりする事例も増えています。
家族の影響は、採用にとどまりません。企業が人事制度を見直す場面でも、社員本人だけでなく家族の理解が制度の浸透や受け止め方に大きく関わってきます。例えば、評価制度が変更され、給与や働き方に影響が出ると、「本当にこの会社で働き続けて良いのか」といった不安が家庭のなかで広がることがあります。社員自身が制度に納得していたとしても、家族が不安を感じれば、転職や異動、昇進などキャリアの判断に迷いが生じる可能性があります。
こうしたなかで、家族の意思が社員のキャリア選択に影響する現象として「旦那ブロック」「嫁ブロック」と呼ばれるものもあります。例えば、妻が夫の単身赴任に反対するケースや、夫が妻の昇進にともなう負担増を懸念して昇進を見送らせるケースです。家庭の事情を優先するあまり、社員が希望するキャリアを諦めざるを得ない場面も考えられます。
たとえ制度の中身が合理的であっても、家族の納得が得られなければ社員の満足度は下がりかねません。人事制度の変更は、もはや「社内だけの問題」ではなくなっています。社員が家族にも安心して説明できるようにするためには、企業側の工夫が欠かせません。制度の目的や内容をわかりやすく整理した資料や、生活への具体的な影響を伝える説明が、家族の不安を和らげる助けになります。
こうした状況を踏まえて、家族向けの説明会や経営方針を伝える動画などを活用し、家庭との橋渡しを意識した取り組みを行う企業も増えてきました。実際に、大手鉄道会社では、内定者の親を対象とした説明会を毎年実施しています。また、大手金融グループでは、内定者の家族向けに会社案内の資料を配布し、企業への信頼感の醸成に努めています。さらに、大手人材サービス会社では、社員の配偶者向けに働き方改革や福利厚生の情報を発信しています。これらの取り組みは、社員の定着率を高めるだけでなく、企業全体への信頼感を深める効果も期待できます。
人事制度の改革は、単なる職場のルール変更にとどまるものではありません。社員一人ひとりの生活設計や将来の選択にも大きく関わる重要なテーマです。社員の価値観や生活に寄り添い、家庭との対話を視野に入れた制度づくりが、これからの企業に強く求められています。