人事制度構築支援
2025年春闘も昨年に続き高水準の賃上げが続いており、長らく行われてこなかったベースアップ(ベア)に関しても、ここ2年~3年で実施する企業が増加してきました。これにともない、ベアについてのノウハウがない企業から「定昇とベアをどう配分すべきか」というご相談を受けることも増えてきましたので、判断の際の切り口を紹介したいと思います。
まず、「定昇」「ベア」とも一義的な定義がある言葉ではありませんので、冒頭、定義付けをしておきます。本稿では、以下の定義を前提にしています。
以下、切り口ごとに、各社が重視する方針に応じた配分判断の方向性を示します。
…全等級同額の賃上げとなるため、元の基本給額が低い下位等級の方が高い昇給率になり、若手・下位等級層に原資を優先配分する形になります。
…定昇は「現基本給×○%」といった形で昇給額が決まるケースが多く、現基本給が高い社員(勤続年数が長い層や等級の高い層)にとって有利となります。
…定昇による給与改定額は評価結果と直接連動するため、成果主義の浸透やモチベーションの向上に有効です。
…物価高対応や全社員への公平感を重視する場合は、ベアが適しています。
…賃金テーブル自体は変わらないため、将来入社する社員へのベース引き上げ効果はなく、影響は比較的限定的です。
…賃金テーブルが繰り上がることで、以後の採用・定昇・昇格にも影響し、人件費が恒常的に増加する可能性があります。ベアについては、将来的な人件費への影響を踏まえた判断が必要です。
…定昇を厚くしてしまうとテーブル上限に達する社員が増え、昇給余地が狭まってしまい、制度設計時の想定との整合が取りにくくなります。
…昇給余地が十分に残されているため、定昇中心でも当面は無理のない運用が可能です。
…将来採用する社員の初任給やキャリア入社時の賃金水準と現行社員のバランスを保ちやすくなり、市場競争力の観点でも有効です。
…大幅定昇の対象であった社員(大幅定昇の実施タイミングに在籍していた社員)だけが大きな恩恵を受けるため、今後入社する社員には不利になり、内部公平性が保ちにくくなります。
結論として……
定昇とベアの最適な配分に、すべての企業に共通する「正解」はありません。
「誰を支援したいか」「何を優先したいか」「制度上の実態や制約はどうか」といった観点をもとに、自社の目的・状況に即した柔軟な判断を行うことが重要です。