定昇とベアの配分を検討する際の切り口

2025年春闘も昨年に続き高水準の賃上げが続いており、長らく行われてこなかったベースアップ(ベア)に関しても、ここ2年~3年で実施する企業が増加してきました。これにともない、ベアについてのノウハウがない企業から「定昇とベアをどう配分すべきか」というご相談を受けることも増えてきましたので、判断の際の切り口を紹介したいと思います。
まず、「定昇」「ベア」とも一義的な定義がある言葉ではありませんので、冒頭、定義付けをしておきます。本稿では、以下の定義を前提にしています。

  • 定昇:前年の評価結果に応じた給与改定。賃金テーブルの改定はともなわない。
  • ベア:評価を問わず一律同額の賃上げ。賃金テーブル自体も同額引き上げる。

以下、切り口ごとに、各社が重視する方針に応じた配分判断の方向性を示します。

  1. 支援したい対象層はどこか?
    • 若手・下位等級層の底上げを重視 → ベアに厚く配分

      …全等級同額の賃上げとなるため、元の基本給額が低い下位等級の方が高い昇給率になり、若手・下位等級層に原資を優先配分する形になります。

    • 年長層や上位等級層の安定処遇を重視 → 定昇に厚く配分

      …定昇は「現基本給×○%」といった形で昇給額が決まるケースが多く、現基本給が高い社員(勤続年数が長い層や等級の高い層)にとって有利となります。

  2. 処遇のメリハリ・評価制度との連動性
    • 評価に応じた処遇差を明確にしたい → 定昇に厚く配分

      …定昇による給与改定額は評価結果と直接連動するため、成果主義の浸透やモチベーションの向上に有効です。

    • 評価に左右されず、全体の底上げを優先 → ベアに厚く配分

      …物価高対応や全社員への公平感を重視する場合は、ベアが適しています。

  3. 将来的な人件費影響をどう捉えるか?
    • 定昇は、将来的な人件費の累積的な増加を抑えやすい

      …賃金テーブル自体は変わらないため、将来入社する社員へのベース引き上げ効果はなく、影響は比較的限定的です。

    • ベアは、将来的に人件費負担が累積しやすい点に留意

      …賃金テーブルが繰り上がることで、以後の採用・定昇・昇格にも影響し、人件費が恒常的に増加する可能性があります。ベアについては、将来的な人件費への影響を踏まえた判断が必要です。

  4. 賃金テーブル内の社員分布と運用のしやすさ
    • 賃金テーブル上限付近の社員が多い → ベアに厚く配分

      …定昇を厚くしてしまうとテーブル上限に達する社員が増え、昇給余地が狭まってしまい、制度設計時の想定との整合が取りにくくなります。

    • 賃金テーブル下限付近に社員が多い → 定昇中心でも問題なし

      …昇給余地が十分に残されているため、定昇中心でも当面は無理のない運用が可能です。

  5. 採用市場との整合性・競争力
    • ベアは、新卒・キャリア採用条件との整合性を取りやすい

      …将来採用する社員の初任給やキャリア入社時の賃金水準と現行社員のバランスを保ちやすくなり、市場競争力の観点でも有効です。

    • 定昇偏重にすると、今後入社する社員とのバランスが取りにくくなる点に留意

      …大幅定昇の対象であった社員(大幅定昇の実施タイミングに在籍していた社員)だけが大きな恩恵を受けるため、今後入社する社員には不利になり、内部公平性が保ちにくくなります。

結論として……
定昇とベアの最適な配分に、すべての企業に共通する「正解」はありません。
「誰を支援したいか」「何を優先したいか」「制度上の実態や制約はどうか」といった観点をもとに、自社の目的・状況に即した柔軟な判断を行うことが重要です。