人事制度改定と併せて意識したい「アンラーニング」の視点

地方銀行が若手の段階から支店長に昇進できる人事制度を導入したり、ある地方飲料メーカーが新卒初任給の引き上げや正社員の基本給テーブルの見直しを行い、ベースアップを実施したりするなど、給与・人事制度の大幅な見直しに関するニュースを目にする機会が増えています。
こうした各社の動きを参考にしながら、自社の将来に向けた戦略的な人事制度改定を検討する企業も確実に増えていることでしょう。
しかし、実際には「必要性は感じているけれど、なかなか踏み出せない」という声もよく耳にします。

実際、私たちが人事制度改定の支援をさせていただくなかでも、議論を重ね、具体的な設計が形になってきた段階で、改めて慎重な声が上がることは決して珍しくありません。
「現行制度を大きく変えて本当に大丈夫だろうか」
「社員から不安の声が出てしまうのではないか」
「処遇面で影響を受ける人がいるのではないか」
などの声は、多くの企業で大なり小なり上がってくる懸念事項です。
それだけ、長年培ってきた制度や文化には、企業の歴史を支え、安心感や安定感をもたらしてきたという背景があります。これまでの仕組みが間違っていたわけではなく、それがあったからこそ企業はここまで発展してきたともいえます。
しかし、制度を見直すことは、決してこれまでの歩みを否定するものではありません。
私たちを取り巻く環境は確実に変わってきており、変化に対応し、企業としてさらなる発展をめざすためには、「これまでのあたりまえ」を見つめ直すことも必要なのではないでしょうか。

こうした考え方は、近年注目を集めている「リスキリング(学び直し)」に通じるものがあります。
デジタル技術の進化や社会構造の変化に対応するため、企業も個人も、新たな知識やスキルを身に付ける必要性が高まっており、そのなかでリスキリングが重要視されています。
そして、リスキリングと並んで重要視されるのが「アンラーニング(学びほぐし)」という考え方です。
アンラーニングとは、これまでの知識ややり方、考え方を単純に否定するのではなく、時代や状況の変化に合わせて一度立ち止まり、自分自身の思考や行動の枠組みを柔軟に見直すことを指します。「これまでのやり方に縛られず、必要に応じてアップデートする」という前向きな姿勢といえるでしょう。

このアンラーニングの考え方が、人事制度改定にも当てはまるのではないかと考えます。
人事制度改定は、単なるルール変更にとどまりません。組織として大切にしてきた価値観や文化、社員一人ひとりの働き方やキャリアの捉え方にまで影響する、より深い見直しを伴います。
だからこそ、制度設計を進める一人ひとりが、「これまでのあたりまえ」をアンラーニングし、変化を前向きに受け止めることが大切なのです。
リスキリングが個人のスキル変革にアンラーニングを必要とするように、人事制度改定にも、思考の柔軟性と前向きな学び直しの視点が欠かせません。
環境が変わるからこそ、制度も変わる。そしてその変化を恐れず受け入れることが、組織をより良くする一歩につながるのではないでしょうか。