人事制度構築支援
育児・介護休業法の改正や、2010年に始まった厚生労働省の「イクメンプロジェクト」などの働きかけにより、令和5年度(2023年度)の男性の育児休業取得率は30.1%と過去最高を記録しました。これは一定の前進ではあるものの、育休の取得期間について見ると、1カ月未満の「取るだけ育休」が58.1%を占めており、「男性が積極的に育児に関わる社会の実現」という目的に適う休み方にはなっていないようです。
現在、多くの企業が「育休取得によってキャリアに不利益が生じないように」と、制度上の配慮を整えつつあります。例えば、評価や昇進への負の影響を明文化してそれらを防ぐ取り組みも進められています。制度面では、仕事と育児の両立を可能にする環境は少しずつ整ってきたといえるでしょう。
一方で、現場の実態に目を向けると、「制度はあるけれど育休を取りづらい」という空気や、「自分が育休を取ることで同僚に負担が掛かるのではないか」という遠慮や気遣いが、取得への心理的ハードルになっていることも少なくありません。とくにチーム単位で仕事を進める現場では、急な戦力の穴を埋めるために、周囲のメンバーに業務のしわ寄せが及びやすく、知らず知らずのうちに負荷の偏りが生まれるケースもあります。
こうした背景を踏まえ、「育休取得者の業務をサポートした社員やチームに対し、インセンティブを付与する制度」を導入する企業も出てきています。例えば、業務の引き継ぎを担った社員に手当を支給したり、評価項目の一つとして加点したりするなど、報酬や評価に貢献を反映する仕組みです。
このような取り組みは、支援した側の努力を見える化し、育休を取得する側にとっても「申し訳なさ」ではなく「感謝と信頼」の循環が生まれやすくなるという点で、意義のある施策といえるでしょう。育児との両立を「個人の課題」ではなく「組織全体の取り組み」として捉え直すきっかけにもつながります。
もちろん、こうした制度の導入にあたっては慎重な検討も必要です。業務の支援範囲や関与度合いをどのように評価するか、判断基準をどう設計するかなど、運用上の工夫が求められます。公平性を担保しながら、支援の努力が適切に評価される仕組みを整えることが大切です。
例えば、人事評価制度において「業務の再設計やサポート体制づくりへの貢献」や「柔軟な連携力」を行動評価の要素として盛り込むことも一つの方法です。インセンティブを単なる手当と捉えるのではなく、成長や組織貢献を評価する一環と位置付けることで、制度の持続性も高まるのではないでしょうか。
厚生労働省は現在、「イクメンプロジェクト」の後継として「共育プロジェクト」を立ち上げています。男女がともに育児と仕事を両立し、「ともに育てる」社会の実現に向けて、雇用環境や職場風土の改善を推進するため、企業への普及・啓発活動にも注力しています。企業においても、誰もがあたりまえに仕事と育児を両立できる環境づくりが、これまで以上に求められる時代になってきたといえるでしょう。
育休に関する課題は多岐にわたりますが、「育休を取りづらい空気」や「支援する側の負担」といった職場風土に着目した工夫も、今後ますます重要になっていくのではないでしょうか。支える側の努力が適切に評価される仕組みは、誰もが安心して育児に向き合える組織づくりの一助となるはずです。