人事制度構築支援
中小企業では、未だ人事制度を持たないケースが数多く見られます。制度がないこと自体を頭ごなしに否定するつもりはありません。むしろ、社長が一人ひとりの社員を見て、公平に、納得感ある処遇を判断しているならば、それは制度以上に信頼感を生む可能性もあるでしょう。
また、制度をあえて整備しないことで、組織として大胆な抜擢や柔軟な運用がしやすくなるという利点もあります。経営者の感覚でスピーディに意思決定できることは、変化の多い経営環境下では一定の合理性を持ちます。
しかし、そうした“裁量重視”のメリットは、今の時代ではむしろデメリットに転化しつつあります。とくに、企業に求められる人財像が大きく変わっていることを見落としてはいけません。
現代において組織が本当に欲しているのは、「言われたことを正確にこなす人」ではなく、「自ら考え、自ら行動できる人財」です。環境が目まぐるしく変わる今、上からの指示を待っていては成果は出ません。「自分のキャリアは自分で切り開く」という志向を持つ人財こそが、変化対応力や創造性を発揮し、企業に価値をもたらします。
そして、このような自律型の人財が求めるのは、“自分の努力がどう報われるかの見通し”です。人事制度がなければ、その見通しが立ちません。制度がないというだけで、「がんばっても報われるか否かは上司のさじ加減」と見なされ、自分の人生の舵を他人に握られる職場に置かれているように感じさせてしまいます。
とくに、優秀な人財ほどそうした状況を嫌います。「努力すれば前に進める」と思える職場かどうかが、選ばれるか否かの分水嶺になるのです。いくら社長が“人を見て評価している”と言っても、それが制度として仕組みに落とし込まれていなければ、対外的には伝わりません。
また、人事制度がないことは、現場のモチベーションにも影響します。評価や昇格が属人的になれば、「努力」よりも「空気を読む力」や「上司との関係性」が重視される風土になりかねません。これは長期的には組織の活力を奪います。
制度は万能ではありません。しかし、自律的に動ける人財を惹き付け、活かし、成長させるためには不可欠な「土台」となります。今、経営者の目だけで人財を評価しきる時代は終わりつつあります。「社長の目」に頼るのではなく、「制度の目」で人財を見つめ、育てていく。そんな転換が、これからの中小企業経営には求められているのではないでしょうか。