人事制度構築支援
韓国で「週4.5日勤務制」の試行が始まりました。背景には、出生率0.75という世界最低水準の少子化や、長時間労働が常態化する社会状況があります。自治体が企業と連携し、労働時間を短縮した場合に生産性や従業員満足度がどう変わるのかを検証しているのです。これは国を挙げた実験ともいえるでしょう。日本も出生率1.15、人手不足や長時間労働といった同じ課題を抱えており、週休拡大は近い将来、避けて通れないテーマになるかもしれません。
休日が増えること自体は、社員にとって大きなメリットです。しかし企業には制度設計の難題が待っています。最大の論点は給与と勤務時間の関係です。勤務時間が減っても給与を維持すれば人件費は膨らみ、逆に時間比例で減額すれば社員の不満を招きます。どちらに振れても課題が残る以上、「時間に応じて報いる」仕組みを改め、成果や役割を軸にした処遇へ移行することが不可欠です。
もう一つの課題は、仕事の進め方です。週休拡大のもとでは、1人が長時間働いて穴を埋めるといった従来のやり方は通用しません。必要なのは、業務の分担や引き継ぎ、情報共有の仕組みを整えることです。特定の人に依存する体制を減らし、誰が休んでも業務が止まらない環境をつくれるかどうかが、制度の成否を左右します。休みを増やすこと以上に、チームで成果を出す仕組みづくりが求められるのです。
さらに重要なのは、社員の成長をどう支えるかという視点です。勤務日数が減ればスキルアップの機会が失われるのでは、という不安もあります。だからこそ余った時間をリスキリングや新しい経験に充てられるよう、企業が仕組みを整えることが大切です。学び直しや副業、研修の機会を後押しすれば、週休拡大は「休暇の拡大」にとどまらず「成長への投資」に変わります。
もちろん、業務設計の見直しも欠かせません。休みが増えても残業や持ち帰りで補っていては本末転倒です。業務の優先順位を整理し、標準化やデジタル化を進める。必要に応じて外部委託やシフト制を取り入れる。こうした工夫を積み重ねてこそ、「短時間でも回る仕組み」が整います。とくに顧客対応や納期厳守が求められる現場では、柔軟な発想が不可欠です。
導入の進め方も慎重であるべきです。韓国では自治体が補助金を出し、段階的に試行して成果を確かめています。日本でも、まずは特定の部署や希望者から始め、データを集めて改善を重ねながら広げていくのが現実的でしょう。小さな試みを積み重ね、制度を磨き上げる姿勢こそが、社員の信頼を得る近道です。
結局のところ、週休拡大は休日を増やすことが目的ではありません。限られた時間で成果を上げ、社員が安心して働き続けられる環境を整えること。そして企業が持続的に成長できる仕組みを築くことです。韓国の挑戦は、人事制度設計にとって「時間から成果へ」という転換を考える機会になるかもしれません。