寿司職人育成に学ぶ! 人事制度の再設計

社会の変化にともない、今、人財育成や処遇のあり方の再設計が求められています。かつて「寿司職人は一人前になるまで10年」といわれ、長期の徒弟制度があたりまえでした。しかし、直近では富山県の専門学校が文部科学省の補助事業に採択され、寿司職人育成の体系化に取り組み始めたことは、その常識を覆そうとしています。今後3年間で教材開発から試験授業の開始まで進めていくことで、従来の属人的なOJTに頼らず、若者や留学生でも短期間で技能を習得できる仕組みを整えようとしているのです。人財不足が背景にあるとはいえ、注目すべきは「育成スピードを短縮する」という発想そのものです。

寿司職人育成と同じように、企業における人事制度もまた変化への対応を迫られていくでしょう。長く勤めて徐々に経験を積めば評価される従来型の仕組みは、若手の採用や定着に負の影響を及ぼしかねません。キャリア初期に「成長している」という実感が得られなければ、離職を選ぶリスクが高まるからです。だからこそ企業には、早期に成果を評価し、処遇へ反映する仕組みが欠かせません。育成の効率化と適切な処遇こそが、定着率向上のカギとなるのです。

さらに、仕事の内容そのものも変化しています。寿司の世界では、大手回転寿司チェーンはAIを導入し、顧客の表情を解析してサービス体験を演出しています。顧客が求めるのは、もはや「人と人の直接的なやり取り」だけではありません。もちろん、寿司職人が培ってきた「握る技術」や「おもてなしの心」は依然として重要ですが、その一部はAIに代替されつつあります。これから職人や従業員に求められるのは、「新しい顧客体験をつくり出す力」へとシフトしていくのかもしれません。

この2つの変化は、既存の人事制度に大きな示唆を与えています。第1に、キャリア形成は「長期熟成型」から「短期成長・早期評価型」への転換が避けられないこと。第2に、評価や処遇の対象は従来の職務遂行力にとどまらず、AIやテクノロジーと共存しながら新しい価値を生み出す力へと広がっていくことです。勤続年数や技能の積み重ねだけでは、もはや十分とはいえないかもしれません。

寿司職人育成に見る「早期育成」と「仕事の再定義」。一見異なる話題に見えても、共通して示しているのは「働く価値観と役割が変わりつつある」という現実です。企業においても、短期間で成長を実感できる仕組みと、変化の時代にふさわしい役割を評価・処遇に反映する制度を両立させなければなりません。今こそ、人事制度を見直すタイミングではないでしょうか。