降格を機能させる人事制度基盤を整備しよう

  • 降格には「懲戒処分としての降格」と、能力不足等を理由として行われる「人事権の行使としての降格」がありますが、ここで問題にするのは後者です。
  • 皆さんの会社では、「人事権の行使としての降格」はどの程度行われていますか?
    「基本的には行わない。行うとしても極めて例外的なケース」という会社も多いのではないでしょうか。そうした会社にとっては、「人事権の行使としての降格=タブー」であり、積極的に行使すべきではないもの、あるいは、あえて制度化すべきでないもの(=極めて例外ケースの話であるため、柔軟に運用できるよう制度化による硬直化を避けるべきもの)という印象かもしれません。
  • しかし、降格の基盤整備を忌避すべきではありません。
    事業環境の変化が早く、また、激しい時代になりました。今現在の職務や役割が、将来にわたり今と同付加価値・同成果である保証は無いのです。環境の変化に応じて、各社員を柔軟にスピーディーに「成果に応じた処遇」に位置付けられる形(脱年功序列とし、賃金と成果が一致する仕組み)にしていく必要があります。そこでは、従来の年功的な人事制度では想定されなかった「積極的な降格運用」が避けて通れません。
    「次回の昇降格運用から降格者を大量に出せ」と言うことではありませんが、降格運用の必要に迫られた際に、「そのベースとなる制度や運用基盤が不十分」ということが無いよう、準備を進めるべきと考えます。
  • 以下、降格を機能させる上で必要なポイントをいくつか記載します。
  • (1)降格要件の具体化と周知
    降格は処遇の引き下げを伴い、従業員にとっては不利益である以上、労使間でのトラブルのリスクは高いものです。リスクヘッジのために、できる限り説明性を担保しておくことが肝要になります。
    そこで、最重要なのは降格のルール化・周知でしょう。ブラックボックスで降格人事が行われても説明性がありませんので、具体的な降格要件を就業規則等にルールとして定め、公開・周知することが必要となります。
    その際には、複数回の評価結果(例:半期3回分の評価の平均点が○○点未満等)を要件に組み込むのが良いでしょう。降格要件が定量化・見える化されることで社員側に降格リスクの予見可能性が生じますし、また、複数回の評価結果を要件とすることで改善機会も提供でき、いざ降格となった場合でも、当人が受け入れやすくなります。
  • (2)賃金テーブルの公開
    賃金テーブルの具体的な金額を社員に公開していない会社もまだまだ見受けられますが、基本的には公開すべきと考えます。
    もとより、ジョブ型の流れからも、どの程度の役割に対してどの程度の賃金が支払われるのかを明示することは重要と言えます。また、賃金テーブルの具体的な金額が公開されていれば、「降格時にどの程度の賃金減額が生じるか」について予見可能性があり、当人の受け入れやすさに繋がります。
    余談ですが、もし「公開に堪えない」と感じるのであれば、それは賃金テーブル自体の設計(説明性・合理性)に問題があるからかもしれません。降格運用の話とは別に、今一度、現行賃金テーブルが適切な内容で設計されているかを点検すべきでしょう。
  • (3)評価制度の見直し検討
    今まで以上に評価結果に応じて処遇にメリハリがつくことになるため、評価制度の説明性が一層重要になります。
    役割達成度や成果を測る上で真に適切な評価項目・評価基準になっているかは再度点検したいところです。
    併せて、評価者の評価制度運用スキル=マネジメントスキルを上げることも重要です。評価制度に対する納得性は制度のみから醸成されるものではなく、「どのように運用されたか」が大きく影響します。例えば、評価結果が芳しくなく残念ながら降格となった社員がいたとして、「期中上司から放置された挙句、期末になって悪い評価結果だけをフィードバックされた場合」と「期中上司が適宜改善のためのアドバイスや指導を真摯に尽くしたが、改善に至らなかった場合」では、降格に対する本人の納得感が異なるのは想像に難くありません。説明性や納得性の高い形で制度を運用できる評価者の存在も、降格運用においては必須となります。
  • そして、上記諸施策は「講じた次の日から降格運用が適切にできる」というものではありません。
    「降格も含めて処遇のメリハリを一層大胆にスピーディーに行っていく」という会社からのメッセージが初めにあり、制度改定後に徐々に降格運用を活性化させていくソフトランディングの形が従業員にとって心の準備がしやすく、受け入れやすい形でしょう。
    評価制度の運用スキル等も、体系的な教育研修を実施したり、実運用の中で見えた課題に対する改善施策を継続的に講じることを通じて徐々に向上させるものです。
  • 降格を活用せざるを得ない未来はそう遠くありません。その時になって困らないよう、基盤の整備は早めに進めましょう。