人的資本経営診断サービス
2023年3月期に有価証券報告書への人的資本情報の開示が義務化されてから約2年が経過しました。日本企業における人的資本経営への向き合い方が、少しずつ変わってきていると感じています。
今までは、主に投資市場からの外圧に応えるために、ステークホルダーが求めている情報を定義し、企業価値を下げないための「守り」の人的資本経営に集中していました。しかし、実際に情報を開示しても、成果を実感できない――こう感じたことはありませんか? 多くの日本企業が「データはあるが、活用できていない」「施策の効果が見えない」「経営層との連携が不足している」といった課題を抱えています。また、近年、タレントマネジメントシステムをはじめとする人事システムを導入する企業が増えていますが、社内に蓄積されたデータを十分に活用しきれていないという声も多く聞きます。
そこで、2回のコラムにわたり、そんな課題を乗り越え、企業価値の向上に向けて一歩先へ行くための、「データ活用型」人的資本経営を紹介いたします。
「データ活用型」人的資本経営とは、人事データを戦略的に収集・分析し、客観的なエビデンスに基づいて意思決定を行うことで、人財価値の最大化と企業価値の向上を実現する経営アプローチです。
従来、人事の意思決定は「勘と経験」に頼りがちでした。「こういうタイプの人は活躍するだろう」「これくらいの研修投資が適切だろう」――こうした感覚的な判断は、時に当たることもあれば、外れることもあります。施策の効果検証も曖昧で、PDCAサイクルが回らない。その結果、経営層から「人事施策の効果が見えない」と言われ、予算や権限が得られず、ますます戦略的な取り組みができなくなる。このような悪循環が存在します。
「データ活用型」人的資本経営は、この構造を根本から変えます。従業員の属性情報やスキル、評価、経験、エンゲージメント、勤怠など、あらゆる人事データを統合的に分析。客観的なインサイトを抽出し、それに基づいて採用、配置、育成、評価などの意思決定を行います。「退職予兆の検知精度90%」「配置の最適化による生産性15%向上」「育成投資ROI 5倍」――データがあれば、このように取り組みの成果を数字で示すことができます。データが経営層との共通言語となり、理解を深め、予算が付く、そして戦略的な取り組みが加速する。悪循環が「好循環」に転換します。
データ活用には、3つのレベルがあります。第1に「現状の見える化」。基本的なKPIをダッシュボードで可視化し、過去と現在の状況を正確に把握します。第2に「予測とシミュレーション」。過去データから未来を予測し、離職リスクやスキルギャップを先読みして対策を打ちます。第3に「戦略的意思決定の支援」。複数のシミュレーションシナリオを比較し、経営目標を達成するための最適解をデータから導き出します。
このように、「勘と経験」だけではなく、それらを根拠付ける「データとファクト」を身に付けることで、説得力を持ち、経営戦略と連動した打ち手を実行できるのが、「データ活用型」人的資本経営です。

では、なぜデータ活用が重要なのか。3つの理由があります。
第1に、データは意思決定の質を向上させます。今までは曖昧だった、「ハイパフォーマーや重要人財」をデータを用いて定義することで、現状と理想の姿、そのギャップを定量的に評価できます。そのギャップを埋めるためにはどのような施策を実行するのか、データに基づいて考えることで、採用や育成の効率を高め、適材適所の精度を向上させます。
第2に、データは投資対効果を可視化します。育成に掛けた費用に対して、利益がどのくらい向上したのか。離職者が1人増えると、財務的なインパクトはどれくらいになるのか。施策の効果を正確に測れるだけではなく、数字をもとに経営層と会話することで、データが共通言語となり、経営層のコミットメントを引き出せます。
第3に、課題の早期発見と対策ができます。例えば、短期間で繰り返し実施するパルスサーベイ(簡易調査)により、エンゲージメントの変化をリアルタイムに把握できます。スコアやコメント情報など時系列データを収集し、人の持つ直感と組み合わせることで、従業員一人ひとりの状況を正確に把握し、モチベーションが下がりきる前にアクションを実行できます。
このように、データ活用は人的資本経営の悪循環を断ち切り、中長期的な価値創出を実現します。データで取り組みの効果を可視化し、経営層の理解を獲得、予算や権限を得て、オペレーション業務から戦略業務へとシフトする。そして分析するデータを広げ、サイクルを回していく。これが、中長期的な企業価値向上につながる「データ活用型」人的資本経営です。

「データ活用型」人的資本経営は、決して「人を数字で管理する冷たい仕組み」ではありません。むしろ逆で、データがあるからこそ、一人ひとりの「小さなSOS」に気付くことができます。見逃していた才能を発見できます。適材適所を実現し、個人の能力を最大限に引き出せます。データは、人を理解し、人を輝かせるための「光」となるのです。
人を活かす経営が企業価値を左右する時代がもう始まっています。「データ活用型」人的資本経営という新しい潮流。その波に乗るか、見送るか。今、その分岐点に立っています。
次回は、「データ活用型」人的資本経営にチャレンジしてみたい皆様に向けて、準備から始まる「P+PPDACサイクル」という実践的なフレームワークを紹介いたします。
それでは、次回の投稿でまたお会いしましょう。
「データ活用型」人的資本経営の実践~P+PPDACサイクル~
「データ活用型」人的資本経営の新潮流
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