「データ活用型」人的資本経営の実践~P+PPDACサイクル~

1.はじめに

前回のコラムで紹介した、「データ活用型」人的資本経営。始めたいけれど、日常の業務で手一杯で時間がない、何から手を付けていいかわからない――こうした課題、ありませんか?

データ活用の重要性は理解できても、実践となると途端にハードルが高く感じる。その理由の多くは、「準備不足」にあります。既存業務に追われているなかで、いきなり新しい取り組みを始めようとすると、当然、時間が足りず、方向性も定まらず、頓挫してしまう。

今回は、そうした失敗を避けるための実践的なフレームワーク「P+PPDACサイクル」を紹介します。データを用いた問題解決で使われるPPDACサイクルに、もう1つの「P(Prepare:準備・整理)」を加えた、BBS独自のモデルです。

この「最初のP」こそが、データ活用を成功に導く鍵となります。

2.P+PPDACサイクルとは?

P+PPDACサイクルは、「データ活用型」人的資本経営を実践するための6段階のフレームワークです。

P+PPDACサイクル
  • Prepare(準備・整理):取り組む土台づくり。業務を効率化し、理想の姿を定義。
  • Problem(問題定義):経営戦略に基づき、解決すべき人事の問題を明確に定義。
  • Plan(計画立案):問題解決に必要なデータと分析方法の計画を設計。
  • Data(データ収集):計画に基づいて必要なデータを収集・整備・統合。
  • Analysis(分析・インサイト):データを分析して問題の真因や傾向、示唆を抽出。
  • Conclusion(結論・施策実行):分析結果に基づき具体的な施策を実行し、効果を測定。

従来のPPDACサイクルは、Problem(問題定義)から始まります。しかし、人事部門の現状を見ると、「問題定義をする時間すらない」「そもそもどんなデータがどこにあるのかわからない」という状態は珍しくありません。いきなりProblem(問題定義)から始めても、途中で息切れしてしまうのです。

そこで私たちは、最初に「P(Prepare:準備・整理)」のフェーズを設けました。このフェーズで、(1)既存業務を効率化して戦略業務の時間を確保し、(2)現状と理想の姿を明確にしたうえで、(3)ステークホルダーを巻き込み、(4)必要なリソースを確保します。

この「土台づくり」があって初めて、Problem以降のサイクルが円滑に回ります。本コラムでは、この最も重要な「最初のP(Prepare)」に焦点を当てて説明します。

3.最初のP(準備・整理)の重要性

なぜ「Prepare(準備・整理)」が必要なのか、2つの理由があります。

リソースの確保――「時間がない」問題の解決

多くの人事部門で共通していえるのが「既存業務で手一杯」な状態だということです。給与計算、勤怠管理、採用管理、労務対応。これらに追われ、戦略的な取り組みに時間を使えません。この状態で新しいプロジェクトは始められません。

そこで、Prepareフェーズで、既存業務を効率化します。給与計算の外部委託、勤怠システムの刷新、採用管理システムの導入。こうした効率化で、戦略業務に使える時間と人財を確保します。この時間で、データ活用プロジェクトを始めるのです。

方向性の明確化――「何をすべきか」の定義

もう1つの問題は、「何から始めればいいかわからない」ということです。データ活用と一口にいっても、範囲は広い。離職分析、エンゲージメント向上、スキルの可視化、人財ポートフォリオ設計……。どれも重要そうだが、全部はできない。優先順位が定まらず、あれもこれもと手を出してどれも中途半端に終わる。

こんな状況を回避するために、Prepareフェーズでは、「現状(As-Is)」と「理想の姿(To-Be)」の両方を明確に定義します。

現状把握では、人事部門の現在の役割、経営からの期待値、保有データの状況、チームのスキルレベルを客観的に把握します。

理想の姿では、1〜3年後のありたい姿を描きます。「人事が経営の戦略的パートナーになっている」「データに基づく予測と提案ができている」「離職率を12%から8%に下げる」「エンゲージメントスコアを80点に向上」といった具体的な目標を設定します。

As-IsとTo-Beのギャップが、「今、取り組むべき問題」です。これが明確になれば、次のProblem(問題定義)フェーズで、より具体的な問題設定ができます。現状とめざすべき姿が見えているので、目標に向けて迷わず進めます。

さらに、Prepareフェーズでは、「ステークホルダーの巻き込み」も行います。経営層への説明と合意形成、チーム内の意識統一、関係部門(IT、経営企画)との連携体制の構築――データ活用は人事だけでは完結しません。周囲を巻き込む準備をしてから始めることで、途中で「協力が得られない」という事態を避けられます。

Prepareには3〜6カ月、場合によってはそれ以上掛かることもあります。しかし、この投資が、その後の1年、3年の成功を決めます。準備なくして成功なし。これがP+PPDACサイクルの核心です。

4.最後に

P+PPDACサイクルは、「完璧なデータ基盤がなくても始められる」実践的なフレームワークです。最初のP(Prepare)で土台をつくり、Problem以降のサイクルを回す準備を整える。最初は時間が掛かりますが、Prepareを実施した場合と、しなかった場合では、以降のPPDACサイクルのスピード感と精度に大きな差が生まれます。

「時間がない」「何から始めればいいかわからない」――その悩みは、Prepareフェーズで解決できます。まずは準備・整理に投資をしてください。その先に、「データ活用型」人的資本経営の成功が待っています。

2回のコラムにわたり、「データ活用型」人的資本経営とその実践フレームワークを紹介しました。変革につながる第一歩を、今日から踏み出していただければ幸いです。