IFRS対応支援
2024年4月9日に国際会計基準審議会が、IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」(以下、IFRS18と表記)を公表しました。
IFRS18はその名称のとおり財務諸表の表示や開示にかかる要求事項を定めており、これらの要求事項は大きく以下の3つに分けることができます。
上記の要求事項のうち、「新たな小計及び区分」と「集約及び分解の原則」にかかる実務対応上の留意点を2025年5月14日、19日のコラムで解説を行いました。本コラムでは、上記に挙げた最後の要求事項であるMPMsについて「推定と反証」を題材に実務対応上の留意点を解説します。
IFRS18第117項に規定されているMPMsの定義をまとめると「企業の財務業績の一側面についての経営者の見方を財務諸表利用者に伝えるために、財務諸表外での一般とのコミュニケーションにおいて使用されている収益及び費用の小計」となります。例えば、「営業利益」から「減損損失・リストラクチャリング費用・有形固定資産の処分益」などの収益および費用の項目を除外した「調整後営業利益」のような、純損益計算書自体には小計として表示していない項目を投資家等への情報提供として公表しているのであれば、当該「調整後営業利益」はMPMsとなる可能性があります(後述の反証を行った場合を除く)。
IFRS18の適用にあたり企業のMPMsを特定する際には、IFRS18第119項の「推定」にかかる規定を理解しておく必要があります。当該規定は「財務諸表外での一般とのコミュニケーションにおいて使用されている収益及び費用の小計」を「企業の財務業績の一側面についての経営者の見方を財務諸表利用者に伝える」と推定するものです。これは、当該小計がIFRS18第117項(c)の除外対象に当てはまらない限りMPMsに推定されることを意味しており、企業は当該推定を「反証」しなければ、これらをMPMsとして扱わなければいけません(当該小計を以下、「推定された小計」と表記)。例えば、前項で例示した「調整後営業利益」はこれに当てはまるため、MPMsに推定されることになります。
つまり、「推定された小計」となる複数の調整後営業利益を投資家等の情報提供に利用している場合、当該推定の反証を行わなければ、これらのすべてをMPMsとして扱うとともに、当該MPMsに対して調整表などの注記を提供する必要があります。ゆえに、「推定された小計」が複数生じる企業は投資家等へ情報提供を行う小計の見直しを検討するとともに、提供している小計をMPMsとして扱うか否かを慎重に判断することになります。
IFRS18第120項によると、「推定された小計」の反証は当該小計が企業全体の財務業績の一側面についての経営者の見方を伝えていないことを合理的で裏付け可能な根拠をもって説明可能な場合に認められます。この点、IFRS18 B124項からB129項にて反証の具体的な要件が挙げられており、例えば、「推定された小計」が単に法令対応のために開示されているのみである場合や、当該小計が財務諸表外での投資家等とのコミュニケーションにおいて提供されているものの、言及がほとんど行われておらず目立たないことなどが求められています(詳細はIFRS18 B124項からB129項の各要件をご参照ください)。
投資家等とのコミュニケーションの観点からは、補足的な情報を含め広く情報を提供するインセンティブが企業に生じる一方、開示対応へのコストの観点からは、積極的に反証規定を活用することでMPMsを必要最低限の個数に限定したいという反対のインセンティブが生じるかもしれません。これについて、理解しておかなければならないことは当該「反証の適切性」は会計監査の過程で検証される可能性が高いということです。したがって、「推定された小計」への反証がIFRS18に列挙された要件を正しく満たしているのかどうか、監査法人等と慎重に協議することが必要です。なお、MPMsの反証自体が企業の監査対応コストを増加させる点に着目すると、IFRS18の適用準備を契機に投資家等に提供する情報のうち、情報価値の低いものをコミュニケーションから削除するなど、提供する情報の必要十分性を見直すことも有用です(結果的に反証しなければならない小計が限定される)。
前述のとおり、「推定された小計」の反証を行う場合には監査法人等との慎重な協議が必要となりますが、当該協議を円滑に進めるためにはIFRS18への理解のみならず監査実務への具体的な理解が望まれます。この点、BBSには大手の監査法人出身の公認会計士が多く所属しておりますので、監査対応などにお悩みの際は遠慮なくご相談ください。
※当コラムの内容は私見であり、BBSの公式見解ではありません。
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