新収益認識基準対応支援
2025年7月31日にサステナビリティ基準審議会(SSBJ)は、我が国のサステナビリティ開示基準(以下、SSBJ基準と表記)の適用にあたっての関連情報として6つの「SSBJハンドブック」を公表しました。SSBJハンドブックは2025年3月31日、同年4月30日、同年5月30日、同年6月30日にすでに32の文書(【表1】)が公表されており、2025年7月31日時点でSSBJハンドブックは【表2】を加えた38の文書により構成されることとなりました。これらは企業がSSBJ基準を適用するにあたり生じる疑問の解消に役立つ反面、サステナビリティ関連財務開示の担当者がSSBJハンドブックの内容やSSBJ基準との関係を理解しておかなければ正確かつ効率的な運用はできません。
そこで、新たに公表された6つのSSBJハンドブックがSSBJ基準のいずれの規定に対応しているのか、及び、各文書の概要と実務上の影響を2回に分けて解説します。今回は【表2】㊱から㊳の文書について扱います。
SSBJハンドブック | 公表日 | |
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① | SSBJ基準用語集 | 2025年3月31日 |
② | 2024年3月公開草案からの主な変更点 | |
③ | 報告企業としてサステナビリティ関連財務情報を収集する範囲 | |
④ | 追加的な情報 | |
⑤ | バリュー・チェーンの範囲の決定 | |
⑥ | 連結財務諸表に含まれる子会社の財務情報の報告期間と報告企業のサステナビリティ関連財務開示の報告期間が異なる場合 | |
⑦ | 法令に基づき報告する指標の算定期間がサステナビリティ関連財務開示の報告期間と異なる場合 | |
⑧ | 期間調整を行う場合の合理的な方法の例 | |
⑨ | サステナビリティ関連財務開示の公表承認日 | |
⑩ | 日本基準で財務諸表を作成する場合の後発事象と財務情報のつながり | |
⑪ | スコープ3温室効果ガス排出の報告と重要性 | |
(参考)2025年3月に公表されたSSBJハンドブックについての解説はリンク先をご参照ください。 サステナビリティ情報開示:SSBJハンドブックの概要と実務上の影響 | ||
⑫ | サステナビリティ開示基準で要求する情報の相互参照が認められる場合 | 2025年4月30日 |
⑬ | 当報告期間中に企業結合が生じた場合のサステナビリティ関連財務情報の開示 | |
⑭ | 財務的影響の開示の対象となるサステナビリティ関連のリスク及び機会 | |
⑮ | 財務的影響の開示と財務諸表との関係 | |
⑯ | 財務的影響に関する定量的情報の開示が免除される場合 | |
⑰ | 地球温暖化係数 | |
(参考)2025年4月に公表されたSSBJハンドブックについての解説はリンク先をご参照ください。 サステナビリティ情報開示:SSBJハンドブックの概要と実務上の影響(2025年4月) | ||
⑱ | 商業上の機密事項に該当し開示しないことができる場合 | 2025年5月30日 |
⑲ | 「サステナビリティ関連のリスク及び機会の識別」におけるガイダンスの情報源と「識別したリスク及び機会に関する重要性がある情報の識別」におけるガイダンスの情報源の比較 | |
⑳ | 参照し、その適用可能性を考慮しなければならない場合の具体的な対応 | |
㉑ | 比較情報を更新するかどうかの判断 | |
㉒ | サステナビリティ(気候)関連のリスク及び機会の影響が生じると合理的に見込み得る「時間軸」に関する開示 | |
㉓ | 産業別の指標 | |
(参考)2025年5月に公表されたSSBJハンドブックについての解説はリンク先をご参照ください。 サステナビリティ情報開示:SSBJハンドブックの概要と実務上の影響(2025年5月) | ||
㉔ | 合理的で裏付け可能な情報 | 2025年6月30日 |
㉕ | 事後的判断の使用を伴うかどうかの判断 | |
㉖ | SSBJ基準のすべての定めに準拠していない場合の開示 | |
㉗ | SSBJ基準を適用する最初の年次報告期間における「過去の報告期間に開示した計画に対する進捗」の開示の要否 | |
㉘ | スコープ2温室効果ガス排出の測定に用いる排出係数 | |
㉙ | 契約証書に関する情報 | |
㉚ | 測定アプローチ別の温室効果ガス排出の集計範囲 | |
㉛ | 温室効果ガス排出の測定に用いる排出係数 | |
㉜ | 温室効果ガス排出の測定にあたりサステナビリティ関連財務開示の報告期間と異なる算定期間の情報を使用することができる特定の状況 | |
(参考)2025年6月に公表されたSSBJハンドブックについての解説はリンク先をご参照ください。 サステナビリティ情報開示:SSBJハンドブックの概要と実務上の影響(2025年6月)(1) サステナビリティ情報開示:SSBJハンドブックの概要と実務上の影響(2025年6月)(2) サステナビリティ情報開示:SSBJハンドブックの概要と実務上の影響(2025年6月)(3) |
SSBJハンドブック | 公表日 | |
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前回コラム(第1回)で解説する内容 | 2025年7月30日 | |
㉝ | 参照する「SASBスタンダード」のバージョン | |
㉞ | 産業横断的指標等(気候関連の移行リスク、気候関連の物理的リスク及び気候関連の機会)に関する開示 | |
㉟ | 資本投下に関する開示 | |
本コラム(第2回)で解説する内容 | ||
㊱ | 内部炭素価格 | |
㊲ | 複数の内部炭素価格を用いている場合の開示 | |
㊳ | カーボン・クレジット |
㊱内部炭素価格 | ||||||||||||||
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気候関連開示基準 | 第6項(1)、第46項(6)、第83項、BC195項、BC196項 | |||||||||||||
[概要]本文書は、内部炭素価格の開示が要求される「意思決定に用いられている場合」に該当するか否かの判断を例示しています。 [実務上の影響]SSBJ事務局は以下のような目的で内部炭素価格が意思決定に利用されると想定しています。したがって、これらの事象に関する意思決定のために炭素価格を設定している場合には「内部炭素価格を意思決定に用いている」と判断されるものと考えられます。
なお、設定される内部炭素価格は経営者の見積りの要素が含まれることから、当該価格を設定及び開示する場合には「どのような計算基礎により内部炭素価格を設定したのか」を文書として保存しておくことが望まれるものと考えられます。 | ||||||||||||||
㊲複数の内部炭素価格を用いている場合の開示 | ||||||||||||||
気候関連開示基準 | 第46項(6)、第83項 | |||||||||||||
[概要]本文書は、内部炭素価格の開示例として以下の2つの例を示しています。
[実務上の影響]開示例によると複数の内部炭素価格を個別に開示する必要はなく、内部炭素価格が使用される目的ごとに価格の範囲(最小値~最大限)を開示することが許容されています。ゆえに、実務上は当該例示に従った簡潔な開示を作成することで足りるものと想定されます。 | ||||||||||||||
㊳カーボン・クレジット | ||||||||||||||
気候関連開示基準 | 第6項(20)、第92項~第95項、第97項~第99項、BC212項~BC215項 | |||||||||||||
[概要]本文書はSSBJ基準上のカーボン・クレジットの扱いを整理するとともに、カーボン・クレジットの具体的な種類が示されています。
[実務上の影響]本文書は、使用目的、使用範囲、使用時期、種類及び数量が定まっていないカーボン・クレジットには企業の目標達成に関する透明性及び信頼性を確保するだけの質がなく、温室効果ガス排出量のオフセットが認められない可能性を示しています。ゆえに、カーボン・クレジットの調達にあたっては必ず明確な使用計画を併せて策定しておくことに留意が必要です。 |
今回は2025年7月31日に公表された6つのSSBJハンドブックのうち、以下の3つの文書にかかる概要と実務上の影響を解説しました。
【表1】及び【表2】に示したとおり、2025年7月に公開された文書を含めSSBJハンドブックの数は38に達しました。基準適用上の課題解決の参考となる文書が整備されることは喜ばしいことである反面、実務担当者がこれらすべての文書を読み込むことは時間的な制約から困難なものと想定されます。本コラムのような情報発信を活用することで効率的に要点をキャッチアップするほか、必要な時に基準の解釈や論点の検討について相談できる専門家とのネットワークを構築しておくことが望まれます。
※当コラムの内容は私見であり、BBSの公式見解ではありません。
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