内部統制の盲点:「本番データの直接修正」が引き起こす3つのリスク

システム運用の現場では、業務の遅延や不具合を解消するために「本番環境のデータを直接修正してしまう」ことがあります(以下、データ直接修正)。例えば、通常のユーザー画面から入力・修正するのではなく、管理者権限を使ってシステムの裏側にあるデータベースを操作し、数値を直接変更することを指します。こうした対応は一見すると迅速で便利ですが、証跡が残らず、内部統制の有効性や組織全体のガバナンスを根底から揺るがす危険な行為です。

なぜデータ直接修正が行われるのか

データ直接修正を行う理由は、多くの場合「緊急対応」です。例えば、

  • 締め処理直前に仕訳データの誤りが発見され、即時修正しないと決算が止まる場合
  • 顧客からのクレーム対応で売上データを至急直す必要がある場合
  • システムの不具合によりデータが取り込めず、管理者が直接補正する場合

このようなケースでは、ユーザー画面からの処理では間に合わず、管理者が直接データベースを操作してしまうことがあるのです。

データ直接修正に潜むリスク

  1. 証跡欠如のリスク

    通常の画面を経由すれば承認履歴や操作ログが残りますが、データベースを直接修正すると証跡が残らない場合があります。後から数値に齟齬が出ても原因を追えず、財務報告の信頼性を損ないます。

  2. 不正利用のリスク

    管理者権限を持つ担当者が自由にデータを操作できる状態では、不正を行っても発覚しにくくなります。売上や仕訳を意図的に操作し、決算数値を恣意的に変えることすら可能です。

  3. システム整合性崩壊のリスク

    基幹システムのデータは多くの関連システムや帳票と連携しています。一部の数値を直接書き換えると整合性が崩れ、後工程でエラーや不一致が頻発するおそれがあります。

必要なコントロール

これらのリスクを防ぐには、以下のような統制が必要です。

  1. 原則禁止ルール

    本番環境のデータを直接修正することは原則禁止とし、修正が必要な場合はテスト環境での検証・承認を経て反映する仕組みを整える。

  2. 権限制御とログ管理

    管理者権限を持つユーザーを厳格に限定し、アクセス・操作ログを必ず残すことで、「誰が何を行ったか」を追跡可能にする。

  3. 緊急対応手続き

    やむを得ずデータ直接修正を行う場合は、事前承認、事後承認、修正内容の記録を義務付ける。これにより緊急対応を例外的に許容しつつも、統制を維持できる。

まとめ

データ直接修正は一見便利そうに思えても、実際にはガバナンスを崩壊させる重大なリスクを抱えています。とくに、管理者権限を使ってログを残さずデータベースを直接操作するケースは、内部統制上の重大な盲点となり得ます。企業は「原則禁止」を基本に据え、緊急時にも厳格な統制のもとで例外的な運用を行うことが不可欠です。
BBSの公認会計士コンサルタントは、クライアントの実態に応じて「現場で無理なく守れるルール設計」と「実効性あるガバナンス運用」の両立を支援しています。