「人的資本」という単語は、人事の世界において2023年度の流行語大賞といえるほど注目を浴びたキーワードでした。その人的資本の開示が求められるようになった現在ですが、非常に興味を引く調査データを見つけました。それは、カオナビHRテクノロジー総研が調査した、2023年3月末決算における上場企業2,329社(全上場企業の約6割)の女性管理職比率(※1)です。女性管理職比率は多様性に関連する3指標の1つであり、読者の皆様の所属企業でも気にしている指標ではないでしょうか。その影響なのか、調査した2,329社の約8割が何かしらの情報を開示しています。

開示した約8割の企業の女性管理職比率はどれほどなのでしょうか。女性管理職比率を確認するうえで、目安となる一つの指標があります。それは2023年6月に公表された女性版骨太の方針に定められた「2030年までに女性役員比率30%以上」という政府目標です。この30%を達成している企業は約5%であり、10%未満の企業が約68%、平均が約9%という結果でした。この結果だけを見てしまうと、政府目標の達成は厳しそうだという印象を受けると同時に、女性管理職比率を高める難易度の高さがわかります。だからこそ、女性管理職比率を高めるポイントを改めて整理したいと思います。

まずは年功的な人事制度を見直すということです。これは女性管理職比率の改善に限ったことではありませんが、年功的な人事制度は現代社会が求める女性活躍とはミスマッチが起こりやすい仕組みです。女性の産休はもちろんですが、男女の育児・介護休暇の取得が義務化された現代社会で、年齢や在籍期間を昇格要件にすると、ライフプランとのミスマッチが生じ、女性の管理職比率を向上させる障害となります。あくまでパフォーマンスをもとに処遇する成果主義やジョブ型の人事制度に見直しをしていく必要があると考えます。そのほかにも、時短勤務や育児補助、女性を対象とした教育施策の導入も効果的でしょう。

次に管理職の働き方に対するイメージの改善です。人事コンサルタントとして多くの企業をサポートさせていただいていますが、現場からよく聞く声として、管理職=長時間労働、つらい、しんどいという声を聞きます。このようなイメージの管理職を自身が思い描くライフプランと両立ができるかと問われると、正直難しいと回答する方が多いと思います。会社としての管理職の長時間労働防止の取り組みや管理職の魅力を発信するなど、管理職のイメージを改善し、自身のライフプランに管理職が入り込むイメージがつくように努める必要があります。

最後は女性管理職比率向上のために取り組んだ施策と、その結果の外部発信です。新卒採用だけでは人財の確保は成り立ちません。中途採用市場が活況なように、中途採用の重要性は高まっています。それと同時に女性の転職も増加しているというデータ(※2)もあります。企業が応募者を選ぶという立場は少なくなり、企業は応募者に選ばれるという立場が多くなりました。女性管理職比率を高めるには、女性従業員数を増やすことも重要な要素です。転職希望の女性から選ばれるためにも、母集団形成における情報発信は効果的です。

上記に女性管理職比率を高めるためのポイントを3つ紹介しました。皆様の企業ではどのような取り組みをされていますか。今回の記事が皆様の参考になれば幸いです。

※1 出典:人的資本データベースから見える上場企業の現状と情報開示の現在地(速報版)(2) ~女性管理職比率編~
https://ri.kaonavi.jp/20240215/
※2 出典:女性の転職が増加 転職時に賃金が上がる傾向 働き方や個人の事情に寄り添う求人も増加
https://www.recruit.co.jp/newsroom/pressrelease/assets/20230328_hr_02.pdf