シニア期の人事制度は「給付頼み」を脱しよう

2025年4月から、高年齢雇用継続給付の支給率が見直され、最大15%から10%に引き下げられました。
高年齢雇用継続給付は、60歳を超えて働く人の賃金が60歳時点より大きく(75%未満に)下がった場合に、その差を一部補うための制度ですが、今回の見直しにより、同じ企業、同じ役割、同じ給与で働いていても、年齢によって給付金に差が出ることが起こり得ます。

例えば、60歳時点の賃金月額が40万円だった人が、60歳以降は24万円に低下したケースを想定してみましょう。

  • 2025年3月末までに60歳に到達した人は、今後も従来の支給率(旧制度・最大15%)が適用されるため、月額の給付金は3.6万円です。
  • 2025年4月以降に60歳に到達した人は、変更後の支給率(新制度・最大10%)が適用されるため、月額の給付金は2.4万円となります。

同じ役割、同じ給与でも、生年月日の違い(極論では1日の違い)により、月額1万円以上の収入差が生じることになります。

企業としては「国の制度の変更だから仕方ない」と考えるかもしれませんが、働く本人にとっては納得しにくい差であり、モチベーションの低下や不満、さらには離職リスクにつながる可能性があります。
とくに注意すべきは、60歳以降の処遇が「給付を織り込んで設計されている」場合です。現役時代(60歳まで)に比べて役割を縮小し、賃金も抑えたうえで、「給付があるからこれで十分」と考えていた制度設計は、今回のような変更により成り立たなくなるリスクを抱えています。

一方で、「年齢ではなく果たしている役割に応じて賃金を決める」仕組みであれば、60歳を境に処遇を機械的に下げる必要もなく、国の制度変更による影響も最小限で済みます。こうした仕組みはシンプルで合理的ですが、「シニア層の人件費が高くなる」との懸念から、導入に踏み切れない企業も多いのが実情です。

しかし、今回の改定は、「いかにしてシニア期の賃金を抑えるか」を前提にした仕組みが限界に近づいていることを示しています。今後は、シニア層の人件費増はやむを得ないことを前提としたうえで、人件費に見合った役割や貢献をシニア社員から引き出すための仕組みづくりが必要です。

60歳以降の人事制度を、単なる延長雇用ではなく、戦略的な人財活用の場として再設計することが、これからの企業に求められる姿勢であると考えられます。