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DX時代に向けた経営管理の整備

DX時代に向けた経営管理の整備

第6回 経営管理整備上のポイント

経営管理は、経営ニーズと時代の要請を受けて、発展してきた(第1回)。経営管理を支える情報システムも、ニーズの変化とIT技術の進化の中で、発展してきた(第2回)。しかし、積み残してきた課題も散見される状況にあった(第3回)。欧米を中心にデジタル技術の活用が進み、その動きが全世界に広がり、DXの時代となった(第4回)。DX推進の観点から日本企業の抱える課題として、「レガシーシステムの問題」と「IT戦略不在」が挙げられた(第5回)。

経営管理の視点で見てみると、従来のコンピュータ化は、「業務の効率化」、「管理の見える化」、「情報の共有化」が中心的なテーマであった。今後のDXに対する経営管理への期待は、「意思決定方法の変革」、「組織運営の変革」に向かうと考えられた。経営管理全体を底上げし、DX時代に備えるためには、先ず従来のコンピュータ化の3つの課題を克服し、さらにDXの2つのテーマに取り組む必要がある。今回は、「DXに向けた経営管理の整備」と「経営管理整備上の留意点」について、整理を行う。

1.経営管理の整備

(1)業務の効率化

日本の企業では、現場の努力もあり製造部門の生産性、品質は世界一だと自負していた。しかし、管理部門は、手入力や手作業が多くて非効率で、決算や管理資料作成のスピードも遅いと認識されていた。間接部門は、コストセンターであり、スピードアップと効率化至上命令であった。これを改善するためには、システム間のデータ交換で手入力を減らしたり、処理を自動化したりし、「データ処理の効率」を上げることが求められた。

(2)管理の見える化

事業オペレーションが複雑化し、グローバル化が進む中で、経営実態が見なくなっていった。具体的には、製品原価や採算、事業業績の変動要因などが見えなくなっていった。管理部門が時間を掛けて資料を作成するが、資料間の整合性が取れていないこともあり、信頼性が低かった。そして、精度の低い資料で、経営判断を誤るリスクがあった。そのため、経営実態を示す「データの見える化」が求められた。

(3)情報の共有化

グローバル化が進む中で、国内子会社、海外現法で分散管理しているデータをExcelで収集し、経営管理資料を作成し、業績報告会で説明がなされた。収集・集計にかかる時間(ペーパ・リードタイム)が長く、意思決定のタイミングを逃してしまうリスクがあった。また、業績悪化の兆候について現地に問い合わせを行っても、実態把握に時間が掛かる場合が多かった。そのため、業績に関わる「データの共有化」が求められた。

(4)意思決定方法の変革と組織運営の変革

DXの時代では、デジタル技術を活用した「既存事業の即応力強化」や「新規事業の創出」が期待されている。

  • 既存事業の即応力強化
    DX時代になると、現場の刻々と変化する状況がIoTによってデータ化され、分析可能になる。これにより、「市場や売れ筋の変化」が把握でき、「変化への柔軟な対応」が可能になる。ここで重要なのは、自動収集される膨大な市場データの「分析力」と「分析結果を活した意思決定」である。
  • 新規事業の創出
    DXがさらに進むと、「ビジネスモデルの転換」「デジタル技術と融合した製品・サービスの提供」が行われるようになる。初めからデジタル化を前提としたビジネス形態となるため、全く新しい「意思決定方法」や「組織運営」が実施されると考えられる。ここで重要なのは、事業形態に応じた「データの定義」と、「データを活かしたビジネス展開」である。

(5)DX時代に向けた経営管理

DXの時代に向けた経営管理の5つのポイントは、「効率的にデータを処理」し、「正確なデータを見える化」し、「データを共有化」を図る。さらに進むと、「膨大なデータを分析」したり、「意図的に集めたデータを活用したビジネス展開」が実現可能になる。つまり、これからの経営管理は、従来のExcel と紙の資料による「バトンタッチ式の意思決定」から脱却し、「データに基づく経営」を徹底することだと言える。

2.経営管理整備上の留意点

(1)IT戦略の策定

  • IT戦略の中核の内容
    過去に積み残してきた課題(レガシーシステムの問題)を克服し、ビジネスを進化させるためには、「企業にあったIT戦略」が必要になる。(第5回)IT戦略では、自社としてのIT活用計画を明確化する。単に「ERPの導入」「RPAの導入」「BIの導入」「IoTの取り組み」などのかけ声はIT戦略と言えない。「どのようなビジネスモデルを目指すか?(ビジネス体系)」「どのようなデータを活用するか?(データ体系)」「どのように実現するか?(アプリケーション、技術体系)」がポイントとなる。
  • ビジネス体系
    DXに向けた経営は、一言でいうと、「データに基づく経営」である。そして、ビジネスがどういう姿になるのかを定義するのが、ビジネス体系ある。一般には、戦略・目標、方針、組織構造を概括した上で、ビジネスモデル、機能体系、業務プロセスなどを定義する。
  • データ体系
    ビジネスに「有効なデータ」は何かを定義するのが、データ体系である。このデータを活用してビジネスを展開することにより、KKD(=勘と経験と度胸)から脱却することが可能になる。「有効なデータ」は、企業毎に異なるため、他社の模倣ではなく、IT戦略の中で「自社のデータ体系」を検討していく必要がある。
  • アプリケーション体系と技術体系
    これからの事業をサポートする業務システムの構造を定義するのが、アプリケーション体系である。業務システムの全体像を示し、個別システムが乱立するのを防ぎ、データの資産化を促進する。また、ハードウェア構成、ソフトウェア構成、ネットワーク構成などを、技術体系として定義し、情報インフラの整備を推進する。

(2)データ定義の重要性

企業活動においては、「正しいデータ」を、「使いたい粒度とタイミング」で使えることが必要不可欠である。それが叶わなければ、業務を遂行する上でも、経営意思決定を行う上でも、リスクが高まる。必要なデータとは何かを定義せずに、ビックデータの時代だからといって、無目的にデータを蓄積しても、結局は価値を生み出さないことになる。「求めるデータは何か」の定義がなければ、何も始まらない。

(3)疎結合型のアプリケーション体系の整備

これまで見てきたように、ERPの最大のメリットは、システムの個別最適化から脱却し、販売・調達・生産・会計等の主要機能をリアルタイム統合したことにある。しかし、ERPさえ導入すれば全て解決する訳ではない。基幹システム、経営情報等の情報系システム、さらには、外部のクラウドサービスを目的に合わせて使い分けていくことが必要となる。こうした実装形態を、ERPの統合型(密結合型)に対して、独立したモジュールが連携させる「疎結合型」と呼ぶ。IT戦略の中では、こうした実装形態も考えていく必要がある。

情報化の視点から見た会計と経営管理の発展

疎結合型システム体系
モデル
特徴 機能を部品化し、各部門のニーズに応じてカスタマイズ、IFで連携
メリット 業務プロセス、データの統合と個別ニーズへの対応の両立を目指す
デメリット 機能毎にシステム分割で難易度、複雑性増す、OnpreとCloud連係等
備考 APIで連携

(4)価値観の変更と専門スタッフの育成の重要性

  • 価値観の変更

    DXに向けて、(恐らく)最大の問題となりうるのが、価値観の壁である。

    Ⓐ 経験・実績 VS ビジョン構想力

    日本企業では、年功序列が薄れたと言っても、現場では依然として「経験、実績」が物を言う世界がある。企業、SIer、コンサル会社の現場では、(第2回で述べた)第一世代、第二世代の諸先輩が幅を利かせている。しかし、DXに向けた経営管理を企画していく上では、過去の経験や実績に依らない「ビジョン構想力」が重視される。必要なのは、過去の焼き直しではなく、「新たな方向性」を創造する能力である。ビジョン構想力を持った人材を育てるとともに、経験・実績豊富な諸先輩に潰されない環境を作ることが必要となる。

    Ⓑ ボトムアップ VS トップダウン

    システムの世界では、ボトムアップ設計とトップダウン設計に分かれる。ボトムアップ設計では、最初にシステムを構成する個々の部品を細部まで設計し、部品群を組み合わせてより大きな部分を作っていき、最終的にシステム全体が構成される。一方、トップダウン設計は、最初にシステム全体構造を定義し、その後、段階的に詳細化していく。最終的には、実装に移せるまで詳細化する。第2回で分類した「第一世代」、「第二世代」の人は、特別な教育を受けていない限り、ボトムアップ設計が基本である。しかし、今後のIT戦略を考え、新たな経営管理や業務のシステムを企画していくには、ボトムアップ開発では限界があり、トップダウン設計が求められる。

  • 専門スタッフの育成

    IT戦略を策定し、新たな業務システムを体系的に整備していくには、将来を託す専門スタッフの育成が必要になる。専門スタッフの育成では、

    • 経営・業務の知識
    • ビジョン構想力
    • 方法論・技法の知識
    • IT技術の知識

    などの専門教育と実践ノウハウの取得が重要となる。自助努力で習得するには無理があり、組織的なバックアップが求められる。

3.最後に

これまで、6回に渡り「DX時代に向けた経営管理の整備」と題して、

  • 経営管理および情報化の発展段階と課題を概括
  • DXそのものの基本的な考え方と企業経営との関係
  • DXの推進におけるITの課題と経営管理整備の留意点

と話を進めてきた。個々の技術論、事例は書籍、雑誌、インターネットなどに記載されており、そちらを参照願いたい。本コラムの中で、一貫して、また繰り返し述べてきたことは、

  • 積み残してきた課題を克服しつつ、いかにDX時代に向けたデータによる経営管理を整備するか?

ということである。これを読まれた方々にとって、「自社の課題を点検し、将来に向けて一歩踏み出す」契機となれば、幸いである。

なお、連結経営管理については、以下の私の記事も参照いただければ幸いである。

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著者プロフィール

倉林 良行(くらばやし よしゆき)

倉林 良行(くらばやし よしゆき)(株)ビジネスブレイン太田昭和
シニア・フェロー 会計システム研究所 所長

【略歴】
大手製造業に入社。本社の情報部門にて国内外の大規模システムの企画・設計。欧州統括会社、事業部にて、事業計画策定・業績管理。監査室にて、国内外拠点の業務監査。BBSに転職後、グランドデザインの策定を中心にコンサルティングを実施。また、コンサルティングの方法論の開発と教育を実施。
【主たる分野】
連結業績管理、連結予算・制度連結、連結原価、資金・為替、財務経理、原価管理、SCM
【著書】
新会計情報システムの設計・構築と運用事例集(企業研究会:共著)
グローバル連結経営管理(中央経済社:共著)
すらすら原価管理(中央経済社)

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