今から始めるサステナビリティ情報開示の体制構築

2023年1月の企業内容等の開示に関する内閣府令等の改正により、2023年3月期の有価証券報告書から「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄が新設されたほか、人的資本も含めた開示の拡充が行われました。
また、企業の中長期的な持続可能性を説明するサステナビリティ開示の動向として、IFRSの開示基準(IFRS S1号・S2号)が2023年6月に確定公表され、日本でも「国際的に整合性のあるものとして開発していく」としてIFRS S1号・S2号に相当する開示基準が現在開発されています。強制適用の時期は未定ですが、2024年3月までに公開草案、2025年3月までに確定基準の公表が予定されています。
さらに、2023年8月に国際サステナビリティ保証基準(ISSA5000)の公開草案が公表されるなど、サステナビリティ情報開示の保証義務化の流れも一部の国・地域で起こっているため、今後を見据えると、サステナビリティ情報も財務情報と同程度の開示体制を構築することの必要性が高まっています。

TCFDの枠組みのうち、「戦略」「指標と目標」は、日本におけるサステナビリティ開示基準の適用により必須開示化が見込まれます。本コラムでは、基準適用開始に備えて、どのような検討を早めに行うことが望まれるか、気候変動課題でとくに重要課題となりやすいポイント2点を紹介します。

(1)温室効果ガスの実績算定のための体制構築

気候変動課題に関する温室効果ガスの排出に関して、Scope1~3という用語で範囲が以下のように定義されています。

  • Scope1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
  • Scope2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
  • Scope3:Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)

(環境省Webサイトから抜粋)

現状の有価証券報告書では、「Scope1・Scope2の温室効果ガス排出量については、積極的な開示が期待されること」という位置付けにとどめられています。
一方で、IFRSサステナビリティ開示基準では、初年度にScope3の温室効果ガスの排出量を開示することは要求されないという救済措置が設定されているものの、原則、企業の温室効果ガスの排出総量の開示が求められています。したがって、日本のサステナビリティ開示基準独自で緩和措置が設定されない限りは、将来開示が必要となります。
Scope1・Scope2の温室効果ガス排出量についても、自社の開示に必要な情報収集を行っていない場合には、情報収集の体制構築が必要となりますが、とくにScope3については、「購入した製品・サービスが製造されるまでに生じた排出量」や「販売した製品を消費者等の使用に伴う排出」など、15カテゴリーにわたり、情報収集する体制構築が重要となります。具体的には、取引先からのアンケート取得などの情報収集が必要となる可能性がありますので、早期の現状調査の着手および情報収集体制の構築が必要と考えられます。

(2)温室効果ガスを削減するための体制構築

IFRSサステナビリティ開示基準では、温室効果ガス排出量の実績のみならず、削減目標の開示も求められています。2050年までにカーボンニュートラルをめざすといった長期的な目標設定となることが多いですが、削減目標を社外に公表していることから、削減目標が達成できるような取り組みの実行も必要となります。このため、具体的な温室効果ガスの削減計画や行動計画に落とし込み、モニタリングするなど、温室効果ガスを削減するための体制構築を早めに設定することが必要といえます。 温室効果ガスを削減するための体制構築の例として、排出量を金額換算し、部門ごとの管理会計上の損益計算書に組み込むことによって、業績評価に反映する手法(内部炭素価格と呼ばれる)や、役員報酬の算定方法に目標達成率を組み込む方法があります。IFRSサステナビリティ開示基準では、内部炭素価格や役員報酬の算定方法への組み込みがある場合は、これらの開示も必要とされています。

以上より、サステナビリティ情報の開示範囲の拡充が見込まれますが、紹介したような社内・社外を巻き込んだ十分な体制構築が必要となる領域もありますので、従来の有価証券報告書開示の枠組みを越えた体制構築について早めの検討が望まれます。