サステナビリティ情報開示:SSBJハンドブックの概要と実務上の影響(2025年8月)―重要性の判断―

本コラムの要点

  • 重要性の判断は企業固有のものであり、画一的な基準は示されていない
  • 判断には定量的要因と定性的要因を総合的に勘案する必要がある
  • リスク及び機会の識別から重要性の判断は担当者のみではなく、経営者等が広く関与することにより判断の俗人化やばらつきを避けることが望まれる

はじめに

2025年8月29日にSSBJ事務局より公表されたSSBJハンドブック「識別したリスク及び機会に関する情報の重要性の判断」について文書の概要と実務対応を解説します。

1.文書の概要 ―重要性の判断とは―

サステナビリティ関連財務情報の開示を行うにあたり、「どのようなリスク及び機会を重要と判断するのか」という点はさまざまな企業が頭を悩ませる課題かもしれません。本文書は当該「重要性の判断」を行う際のポイントを示しています。ここで、SSBJ基準において「重要性の判断」とは、国際サステナビリティ開示基準(IFRS S1/S2)と同じく企業固有の判断とされており、どのようなリスク及び機会を企業が重要と判断したのかということ自体が経営上の意思決定を表すことになります。本件SSBJハンドブックはこのような意思決定を行ううえで考慮すべき「定量的要因」と「定性的要因」の例を示しており、これらをまとめると以下のようになります。

定量的要因
  • キャッシュ・フローへの影響
  • 資源消費率
  • 投資利益率
  • 市場シェア
定性的要因 企業
  • リスク又は機会の性質
  • 特定の取引先への企業戦略上の依存性
  • 想定外のトレンドの変化
外部
  • 事業の所在地(地理的性質、経済状況)
  • 産業又はセクターの性質

2.実務影響 ―業務上の判断手順―

SSBJハンドブックは前述のとおり、重要性の判断を行うにあたり考慮すべき要因の例を示していますが、これらの判断を業務上どのように進めていくことが考えられるのかについては情報を提供していません。この点、想定され得る重要性の判断の手順と関連部門には例えば以下のようなものがあります。

  1. リスク及び機会の識別

    SDGs/ESGの各種課題を踏まえて企業のリスクと機会を洗い出す
    関与部門の例:経営企画部等

  2. 識別されたリスク及び機会の評価

    識別されたリスク及び機会の「影響規模」と「発生可能性」を定量的要因と定性的要因の両面から評価する
    関与部門の例:経営企画部、リスク管理部、経営会議(サステナビリティ委員会)等

  3. 重要性の判断

    評価結果から各種のリスク及び機会に対して企業固有の重要性の判断を行う
    関与部門の例:経営会議(サステナビリティ委員会)等

  4. 判断根拠の文書化と承認

    上記の(1)から(3)の過程を追跡可能なように文書化を行い、当該文書を承認する
    関与部門の例:経営企画部、経営会議(サステナビリティ委員会)、内部監査部等

  • 実務構築上の留意点:識別・評価・判断が担当者依存にならないようにしましょう(属人化・ばらつきを避ける)

おわりに

サステナビリティ関連財務開示における「重要性の判断」とは、単なる開示項目の選定作業ではなく、経営者がどのような課題を重視しているのか、経営者がどのような未来を描いているのかを投資家等に発信するための企業行動の一つです。したがって、経営姿勢や意思決定が重要性の判断の結果に基づいて開示された情報を通じて投資家等に伝わることになるという点を理解し、経営上の判断を適切に反映できるような業務プロセスを構築しましょう。

※当コラムの内容は私見であり、BBSの公式見解ではありません。