職人コンサルが語るERP移行の基本:(1)移行とは何か

昨今、DXの推進やレガシーシステムの保守期限切れを契機として、SAPをはじめとする最新パッケージ製品の導入を検討する企業様が多く、当社も多くの企業様から導入支援に関するお問い合わせをいただいております。
そのなかでよく見かけるのが、システム導入における最終工程である「移行」が、開発の陰に隠れ後回しにされた結果、プロジェクト終盤で“火をふく”ケースです。

本稿よりシリーズ形式で「移行」を題材にコラムを展開してまいりますが、初回となる本稿では著者が多く手がけてきたSAP-FIを念頭に、会計ERPパッケージ導入における“移行の概要”に焦点を当てたいと思います。

1.「移行」の概要

(1)「移行」とは

「移行」とは、「データ移行」「システム切替」「業務移行」をまとめた総称で、実際のプロジェクト活動ではこの3つをどのように実現するかを焦点に、さまざまな活動に取り組んでいきます。

移行
※「データ移行」と「システム切替」は、プロジェクトのチームが担当する。
「業務移行」は、一般的にユーザー企業側の業務改革や定着化のチームが担当するケースが多い。
※本コラムシリーズでは、「データ移行」「システム切替」を対象に次回以降の記事で詳しく取り上げる。

補足:業務移行の概要

現行業務と新業務の差を認識し、ユーザーに新業務を定着させる活動。プロジェクト目的が業務の改善/刷新の場合、ユーザーに対して新業務のコンセプト説明、システム操作のトレーニング、マニュアル提供などを実施する。

(2)「移行」に関するプロジェクト活動

「移行」を実現するために行うプロジェクト活動は以下のとおりです。
細かな点はプロジェクトにより違いますが、ここでは活動の全体像を押さえておきましょう。

分類活動概要
移行検討移行対象の設定
  • データ移行、システム切替の対象を検討・決定する
移行手順書の作成
  • 移行対象ごとの移行手順書(データ移行/システム切替)を作成する
  • 移行ツールの仕様を検討・決定する
移行シナリオの作成
  • 新システムの機能ごとの利用開始タイミングを整理する
  • 機能ごとの利用タイミングからデータを移行する順番を検討・決定する
  • 整理した前後関係に具体的な日程を当てはめた、移行シナリオを作成する
移行ツールの開発
  • 移行手順書で決定した仕様に沿って移行ツールを用意する
    ※IFを流用する、外部ツールを利用する、エクセルで内製するなどの方法がある
移行ツールの検証
  • 移行ツールが仕様どおり挙動するかを検証する
    ※移行リハーサルの一部として実施されることが多い
移行リハーサル
  • 移行シナリオに沿って移行手順を実行し、妥当性を検証する
    ※一般に複数回実施することが多い
本番移行データ移行/システム切替
  • 移行シナリオに準じて、データ移行、システム切替を実行する
稼働後対応過渡期対応
  • 新システム稼働後は、移行データをもとに新システムが動いており、通常の状態と異なる手動での操作などが必要となることがある。プロジェクトでは、この特別な対応のために、マニュアルを作成・展開し、ユーザーからの個別問い合わせにも回答する

2.「移行」の難しさ

「移行」は、導入プロジェクトの最後に実行される工程であり、まさにすべての活動が行き着く最終局面といえます。「移行」には、それゆえの難しさが存在し、この難しさを十分に考慮できていないことが、しばしば新システムの稼働に暗い影を落とす要因ともなっています。
具体的には、以下のような難しさが存在します。

  • 「後続である」難しさ
  • 「関係者が多い」難しさ
  • 「主役でない」難しさ
  • 「検証」の難しさ
  • 「単発である」難しさ

次回のコラムでは、上記に挙げた「移行の難しさ」について詳しく見ていきたいと思います。
ここまでお読みいただきありがとうございました。次回もぜひお読みいただけますと幸いです。

当社はSAPをはじめ、会計ERPパッケージ導入における移行支援の実績も多数ございます。お困りの際はお問い合わせください。

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著者:黒木 仁、髙橋 駿