職人コンサルが語るERP移行の基本:(2)移行はなぜ難しいのか?

前回の終わりに、移行に潜む難しさを挙げました。

  • 「後続である」難しさ
  • 「関係者が多い」難しさ
  • 「主役でない」難しさ
  • 「検証」の難しさ
  • 「単発である」難しさ

今回はそれぞれの難しさについて見ていきましょう。

1.「後続である」難しさ

移行は、業務やシステムを「従来のもの」から「新しいもの」に移し替えるための工程です。したがって、移行の検討を行う際は、前提となる新業務や新機能が事前に確定していることが理想的です。

しかしながら、実際には業務検討や機能検討と並行で移行検討を進めざるを得ないことが多く、つねに業務やシステムの検討結果に仮定を置いた状態で進行することが求められます。

これは、業務や機能の検討状況をつねに把握しながら、変更が起こるたびに影響確認と再検討を繰り返す必要があるということを意味しており、移行検討の進行を妨げる要因となります。

事例

リハーサルで「新機能へのデータ移行手順の検証」を計画していたが、機能要件の変更による遅延が発生し、予定どおりにリハーサルでの検証を実施できなかった。その結果、当該機能については、リハーサルでの検証を経ずに本番へ突入することとなった。

2.「関係者が多い」難しさ

移行には、新旧システム間のデータ移行、周辺システムとの接続切替、業務移行など多様な実施内容が含まれるため、その関係者も多岐にわたります。
各領域内で物事が完結すれば良いのですが、実際にはタイミングを連動させる必要があり、移行チームは多種多様な調整に追われます。調整がうまくいかず、トラブルに陥った例は枚挙に暇がありません。

事例

現行システムからの出力データを使ってテストを行う方針であったが、テスト開始直前に担当ベンダーとの調整がついていないことが発覚。再調整は間に合わず、ダミーデータでテストを実施せざるを得なくなった。

3.「主役でない」難しさ

新システム導入では、新業務・新機能を実現するのが最も重要な活動であり、プロジェクト中の各場面においてその都合が優先されます。それにより、スケジュール的に万全でない状態で「移行」の検討・準備を強いられる場面があり、活動を進めるうえでの難しさとなっています。

事例

新機能の開発チームから「移行データを使って総合テストを実施したい」と要請があり、リハーサル環境をリハーサルの終了後にテスト利用する方針へ切り替えた。
ところが、テスト利用期間に対して考慮が足りず、移行チームはリハーサル後に追加検証を行う環境を失うことになった。

4.「検証」の難しさ

本番移行実施後の結果検証は、時間の制約によって詳細な確認が困難であり、「残高合計額の確認」などの簡易な検証にとどめておくのが現実的です。
そのため、「消込に使う支払予定データが正しく移行されているか」といった詳細な確認は、移行リハーサル時の検証をもって担保とするのですが、ここにもさまざまな難しさが潜んでいます。

事例

初回リハーサルの際は、並行実施中であるテストに関係者の関心が集まっており、まだ先の工程である移行の検証には意識が向いていなかった。その後、本番移行の実施時に必須データ項目の漏れなどが判明。本番移行後に一部再移行の実施が必要となった。

5.「単発である」難しさ

移行は、機能検討などの「今後利用され続けるシステムそのものをつくるための活動」と違い、「新システムを稼働させるための単発イベント」であり、「単発イベントを成功させるための取り組み」です。

この違いが、移行ツールをどう準備するかの判断に影響します。
※移行ツールは、「外部ツールを利用する」「インターフェース機能を流用する」「エクセルで専用ツールを内製する」など複数の実現方法がある。

注意が必要なのは、「一度しか使わないツールだからなるべく節約したい」などの理由で移行ツールを内製する場合です。内製を選択する場合は、他の方法に比べてヒューマンエラーが発生しやすく、さまざまな事象を考慮する必要があります。

事例1

エクセルで移行ツールをつくったが、「エクセルだから」と仕様書や手順書の作成を怠り、担当者以外の人は内容を把握できなくなった。

事例2

現行システムからのデータ抽出やデータの授受が手動であるため、出力ファイルの文字コード設定の間違い、ファイルの渡し間違い、バージョンの取り違えなどのミスが多発した。

このように、「移行」には事前に意識しておくべき多くの難しさが存在しています。そのため、「移行」の勘所を押さえたメンバーの参画が推奨されます。

当社はSAPをはじめ、会計ERPパッケージ導入における移行支援の実績も多数ございます。お困りの際はお問い合わせください。

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次回のコラムでは、より具体的に「データ移行」について焦点を当てていきます。
ここまでお読みいただきありがとうございました。次回もぜひお読みいただけますと幸いです。

著者:黒木 仁、髙橋 駿