職人コンサルが語るERP移行の基本:(3)データ移行のポイント

今回は「データ移行」について見ていきましょう。
※本連載では、会計システムを例にデータ移行について紹介しています。

「データ移行」とは、「新システムに必要なデータを旧システムから移す」ことであり、その目的は「業務処理を開始するために必要となる会計情報を登録する」ことにあります。

データ移行の活動では、目的達成に向けて、本番移行をゴールとした移行検討などの準備を行っていきます。
※詳細は「職人コンサルが語るERP移行の基本:(1)移行とは何か」を参照

本稿では、マスタとトランザクションの両観点についてデータ移行の活動で注意が必要なポイントを説明します。

1.マスタの観点

(1)移行対象の洗い出し

マスタのデータ移行では、移行対象を漏れなく洗い出すことが重要です。名称にマスタと付くものに限らず、パラメータやテーブル値などの名称であっても、新システムに登録するものはすべてデータ移行の対象に含める必要があります。

対象例

  • マスタ類…勘定科目マスタ、組織マスタなど
  • パラメータ類…税コード、税率、支払条件など
  • テーブル値類…アドオン内で参照する独自の設定値など

逆に、名称にマスタと付くものでもトランザクションに類するものもあるので、注意が必要です。
旧システム上の名称に惑わされず、用途を理解して対象を見極めるようにしましょう。

また、後に環境設定やカスタマイズ(標準機能の設定)で対象であることがわかったパラメータなどは、カスタマイズ定義書などに追記することで漏れを防ぐことも忘れてはいけません。

(2)移行手順の作成と検証

移行手順を作成する際は、以下の考慮ポイントを踏まえて検討を行うことが重要です。

  • 登録順序…得意先、仕入先、勘定科目などを先に登録しておかないと、データ登録できない、登録できても動かないという事態が起こる。
  • 処理件数…処理件数が多過ぎるマスタは、移行作業が本番移行の時間内に収まらない場合がある。この場合、事前移行やそれにともなう差分反映の手順も検討することが必要。
  • チェックポイント…本番移行時に速やかな報告・検証を行うために、移行手順内にチェックポイントを設ける。

作成した移行手順は、環境構築時のパラメータ登録やリハーサル時のマスタ登録を通じて検証を行います。検証により手順の不備を見直し、時間超過があれば事前移行を検討します。また、適切なチェックポイントが盛り込まれているか否かも確認し、手順をブラッシュアップしましょう。

2.トランザクションの観点

トランザクションのデータ移行では、大別すると勘定科目別の残高データとそれに紐付く明細データが移行対象となりますが、洗い出しの際は以下に注意しましょう。

(1)予算データの扱い

新システムに予算管理機能を持たせる場合、稼働時の予算(計画値)をどのシステムで算定するかという確認が必要です。新システムで予算策定を行う場合、予算データは移行対象とはなりませんが、旧システムで策定する場合は、移行対象として整理が必要となります。

(2)残高・明細データの粒度

残高・明細データを洗い出す際は、「残高・明細の粒度」を明確にしましょう。どの単位の金額のまとまりを指して「残高・明細」と捉えるのかが、関係者間でズレていると後々の大きなトラブルにつながります。

例えば、支払予定の明細は、取引単位の金額を明細として移行することもできますし、支払条件単位でまとめた金額を明細として移行することもできます。あなたが「残高・明細」と呼んでいる金額単位は、話をしている相手が思っている金額単位と一致していると言い切れるでしょうか?

また、粒度を考える場合、最小粒度ではデータ量が膨大になるため、業務上必要な粒度を見極めることが重要です。

(3)アドオン機能の明細データ

アドオン機能のなかには、専用テーブルに値を登録することが必要なものもあり、洗い出しの対象から漏れないよう注意が必要です。

例えば、債権明細に対する引当ステータスを管理するアドオンの場合、ステータス管理用の専用テーブルを設けて状態を管理することがあります。こうしたケースでは、新システムで登録された債権明細とデータ移行で取り込んだ債権明細のステータスの登録のされ方に違いがないかを確認する必要があります。後者については、専用テーブルに初期値を登録しておくことが必要などの設計になっていることもありうるためです。

上記の理由から、アドオン機能の明細データについては設計を踏まえた見極めを行うことが重要です。

(4)本番移行時の状態と事前の対策

ここまでに解説した「洗い出しのポイント」とは別に、トランザクションでは、本番移行時のデータ状態を意識することも重要です。

トランザクションの本番移行では、稼働月の前月末時点で旧システムから抽出したデータを新システムに登録するのが基本です。しかしながら、抽出データをそのまま移行しただけでは、さまざまな要素によって新システムでの業務運用に支障をきたすケースが存在します。

例えば、明細データの転記日が、データ移行した日付に書き換わるということも上記の一例です。
明細データ(伝票単位)のデータ移行を行う場合、「伝票ごとに異なる実際の転記日」を新システムに反映することは、作業量の観点から困難です。そのため、新システムにはデータ移行を行った日付で転記日が登録されますが、転記日から起算して集計される債権年齢表などはこの影響を受けることになります。

上記の例に類する「さまざまな要素」は、まさにデータ移行の勘所とも呼ぶべきもので、プロジェクトごとにさまざまなケースが存在します。本稿でそのすべてを網羅することはできませんが、データ移行を成功に導くために経験者や専門家の知見を利用するなどして、十分な準備を行うことが推奨されます。

当社はSAPをはじめ、会計ERPパッケージ導入における移行支援の実績も多数ございます。お困りの際はお問い合わせください。

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次回のコラムでは、「システム切替」について焦点を当てていきます。
ここまでお読みいただきありがとうございました。次回もぜひお読みいただけますと幸いです。

著者:黒木 仁、髙橋 駿