海外子会社の決算数値に潜むリスクを見抜けますか?

海外子会社の決算において、経営状況を管理すべき日本人管理者が、言語の壁から十分なコミュニケーションが取れない、現地ローカル基準がわからない、本業は経理ではないといった理由によって、決算を現地スタッフ任せにしてしまっていることがよくあります。
不正は発覚してしまってからの対応では遅く、発生する前に予防的措置を取る必要があります。
そこで今回は、海外子会社の決算において、どの取引にリスクがあり、どのような予防的措置をすべきかに関して、主要なポイントについて考えていきたいと思います。

ここでは、隙間を突いた利益操作、Invoiceをともなわない給与支給、その他流動資産科目を利用した現預金横領という主要な3つのリスクと考えるべきことをピックアップして紹介します。

(1)隙間を突いた利益操作

現地の日本人管理者の多くは、管理を任されている現地子会社が主たるビジネスで利益を得ているかをつねにウォッチしていることから、自身で売上や売上総利益がどのぐらいに着地しそうか、また決算数値が自身の見通しと比較して大きく乖離していないかどうかを把握・確認しています。そのため、売上と売上原価に関して不正は起こり難いと考えられますが、とはいえ、隙間を突いた利益操作の余地は存在します。
Invoiceが売上計上の前提となる国では、Invoiceがない架空の売上が計上されていないか否かは、チェックすれば明らかにわかります。一方で、進行基準による売上計上が認められている国においては、当月売上の算出根拠の正確性の担保が必要となります。
ただし、中国では、発生主義が原則ではあるものの、「発票主義」による隙間を狙った操作は可能です。具体的には、売上は発生時に納品書などに基づき計上し、売上原価は発生時に計上せず、発票入手時に計上することによって、売上と原価の月ズレ計上をする余地があります。業績の厳しい決算月では、そのような意図的なことが行われることも考えられますので、利益率の月次推移の確認など詳細なチェックが必要になってきます。

(2)Invoiceをともなわない給与支給

販売費・一般管理費についても、Invoiceがベースとなりますので、Invoiceのない取引が費用計上されていないか否かは検出できます。ところが逆に、Invoiceに基づかない費用には不正リスクが内包されています。例えば、見積に基づく引当の算定がありますが、引当金の操作については、不正をする人の観点から何のメリットもないため、現地スタッフが不正を行うリスクは少ないといえます。
不正を行う人の観点からメリットがあるのは、自身に有益なことであり、代表的なものが給与に関する操作リスクです。例えば、すでに退職した人への振込を続け、その人からキックバックをもらうなどの行為です(数字上は正しく見せた不正発生のリスク)。
ただし、規模の小さい会社では、このような不正は明らかにわかるため、大規模企業に限定されたリスクといえます。また、月額給与も残業代も同一勘定科目で計上している会社も多いことから、この場合、残業代の増減に相殺されて、見過ごしやすいといえます。
内部管理上、追加コストである残業代がいくら発生しているかの管理目的で月額給与の計上科目と残業代の計上科目を分類し、月額給与の発生額を人員の増減および昇給額と照らし合わせて月次推移分析するとともに、給与計算結果と人事台帳・賃金台帳を照合することにより、給与支給人員数に差異がないか、月額給与総額に差異がないかを最低限チェックする必要があります。

(3)その他流動資産科目を利用した現預金横領

最後に、その他流動資産を利用した不正リスクです。
会社としての利益の確保および本社への業績報告の観点から、Income Statementは注視しておられると思います。
一方、Balance Sheet上は、現預金の残高や、売掛金および買掛金の明細および滞留状況のみの管理であるという現地企業がほとんどです。
ここでの落とし穴は、Income Statementに表れない、Balance Sheet上での不正を見落としがちということです。
Balance Sheet上での不正はどのようなものでしょうか?
現金横領、預金からの不正持ち出しについて、費用を発生させない=Income Statementに表れない方法、それが、その他流動資産を利用した方法です。
例えば、「Invoiceは後日受領することになる」として預金を引き出し、立替金を計上していたとします。一方、立替金が振替えられることなく残高として残り続けており、実はInvoiceを受領することはない立替払いであり、判明した頃には当該スタッフはすでに退職していたというケースが挙げられるでしょう。
現預金出納帳には記録があり、手許現金残高および銀行残高とも一致しており、一方で利益には一切影響を与えないため、日本人管理者のチェックでは見つかり難いといえます。
こうした場合は、その他流動資産の月次増減分析を行い、必要に応じてスタッフに取引内容を再確認するなどして、正常取引であることを確認する必要があります。

これらは現地スタッフにより経理処理された決算数値に潜む不正リスクとその予防措置の代表的なものですが、現地任せのままでは、そのリスクは継続的に潜在することとなります。海外子会社の経営を預かる日本人管理者は、このようなリスクがあることを認識し、上記に述べた措置を検討すべきといえます。