海外子会社のガバナンス強化施策

海外現地法人における業務上の不正の多くは、現地経営者あるいは現地経営者と本社による利益操作による、内部統制の限界を突いた事象であるとよく聞かれます。
一方、現地法人自体において多く発生し、とくに気を付けるべき不正として、着服や横領が挙げられます。
今回は、現地法人の管理において考えるべきポイントについて、いくつか見ていきたいと思います。

1. 形式的な統制で満足しないこと

経営管理担当部門では、さまざまな規程を作成することで十分な管理ができると考えがちです。実際、どういった規程を整備すれば十分なのかと質問されることは非常に多くあります。
もちろん、最低限整備すべき規程はありますが、規程という形式基準だけに頼る管理では、実際に遵守されているかが見えにくく、形骸化しやすいという実態があります。規程に定められた事柄は、業務に組み込まれる形で実質的なコントロールができることが非常に重要になってきます。
また、業務を透明化し、客観的な目で検証できる見える化を図ることで、現地法人の各担当者に対して、「見られている・チェックされている」ことを常に意識させることもポイントです。

加えて、現地経営者は、月次の財務諸表の増減をモニタリングし、想定外の数字の動きをしていないかをチェックすることも重要です。
現地法人では、製造や営業といった部門責任者が経営者となることも多く、会計的観点からのモニタリングが難しい場合は、本社が都度チェックできる体制を構築することや、外部専門家に月次の財務諸表レビューを委託することなども有用です。

2. リスクを最小限に抑える仕組みを考えること

統制を効かせ過ぎることにより、業務が回らないことは避けるべき点ですが、仮に業務を優先して不正が発生したとしても、リスクを最小限に抑える工夫が必要となります。
例えば、手許現金は過去の実績を参考に、最小限の額に留めるようにする。また、通常口座と小口口座を分け、現地担当者が引き出しや振込指示を行う小口口座残高は、緊急の振り込みのみに対応できるだけの金額とし、通常口座は現地法人名義の口座であっても、現地担当者では振込指示ができない、つまり本社のみが振り込みを指示できるような対応も重要となります。

また、業務に追われていると、契約書へのサインを現地担当者から求められた際、内容を確認せずにサインしてしまうことがあるかもしれませんが、契約がなければ取引自体は実施できませんので、契約段階でブロックすることも心がけるべきアクションとなります。
実際、私は、現地語で書かれている契約書にサインの要求があれば、何の契約書なのかを必ず担当者に確認したうえでサインするようにしています。

3. オープンな環境の構築・コミュニケーションを重要視すること

上記「1.」「2.」は、不正のトライアングル理論(不正はa.動機、b.機会、c.正当化の3つの要因が揃うことで起きることを体系的に説明した理論)における“機会”の抑制として有効なポイントであり、オープンな環境の構築やコミュニケーションを重要視することは、残りの2要素である“動機”と“正当化”を抑制することとなります。

つまり、「これだけのことをやっている」「他の人はこれだけもらっているのだから自分だって」といった評価や給与などの処遇などが、“動機”となり、自身を“正当化”する要因となる前に、当人をどのように評価しているか、これからどういうことをすれば評価ポイントがアップするかを評価の場で伝え、しっかりとコミュニケーションをとることが非常に重要となります。また、各人が悩みを言い出せるようなオープンな環境を構築することも現地経営者の重要な役割となります。
このように、業務の透明性に加え、評価の透明性を図ることにより、各担当者に納得感を持って業務にあたってもらうことは、“動機”と“正当化”を極小化することにつながります。

また、業績達成に向けて過度なプレッシャーを与えることも、“動機”につながります。
本社から強い予算達成要請があっても、組織として達成すべき目標として、本人にとっては“過度”ではなく“適度なプレッシャー”となるようなケアが必要であり、また、予算未達に終わったとしても、結果だけではなくプロセス面も含めて評価することが重要です。
日系企業でも、現地法人で働いているのは文化の異なる国・地域で生まれ育ったスタッフです。したがって、現地の文化も踏まえて、最適でオープンな環境づくりに留意する必要があるでしょう。

最後に、「1.」「2.」については、中小規模企業であっても、大規模企業であっても大きな差異はありませんが、「3.」については、中小規模の組織では全体が見え、個々人の性格の把握やコミュニケーションも比較的容易ですが、大規模な組織では行き届かない局面が多くなりがちなことから、要注意といえます。