サステナビリティ開示実務対応基準第1号「温対法基準」の公表による開示実務の効率化

2026年6月11日、サステナビリティ基準委員会(以下、「SSBJ」とする)は、サステナビリティ開示実務対応基準第1号「温対法におけるSHK制度の定める方法により測定し報告する温室効果ガス排出を用いて『気候基準』の定めに従う場合の開示」(以下、「温対法基準」とする)を公表しました。

「温対法基準」の公表前は、温対法(地球温暖化対策の推進に関する法律)における温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(以下、「SHK制度」とする)に基づいて温室効果ガス排出量を算定・報告している場合でも、SSBJ基準に基づく開示のために温室効果ガス排出量を別途算定することがあり、二重管理になるという実務的な課題が指摘されていました。
本コラムは、このような温室効果ガス排出量の二重管理という実務的な課題を避けるため、前提となる「温対法基準」の概要を解説します。

1.「温対法基準」公表の経緯

SSBJ基準に従ってサステナビリティ情報を開示する場合、「気候基準」では、原則としてGHGプロトコルに基づいて温室効果ガス排出量を算定し、開示することが求められています。一方で、例外的な取り扱いとしてSHK制度に基づく排出量を用いることも認められています(「気候基準」第49項、BC125項)。
この例外規定を適用することで、SHK制度に基づいて算定・報告した温室効果ガス排出量を、SSBJ基準に基づく開示にも用いることができるため、開示実務の効率化が期待されていました。しかし、その適用にあたっては解釈が分かれる論点があり、解釈によっては二重管理などの実務負担が生じる可能性があるとの意見があったため、実務上の取り扱いを明確化する目的で「温対法基準」が公表されました。

2.主な論点と「温対法基準」による開示のポイント

SSBJ基準にSHK制度の温室効果ガス排出量を用いる例外規定を適用する際の主な論点と、それに対する「温対法基準」の規定および開示のポイントは以下のとおりです。

主な論点 論点に対する「温対法基準」の規定 「温対法基準」による開示のポイント
SHK制度における基礎排出量と調整後排出量のいずれを基礎として用いるのか 温室効果ガス排出量の開示では、基礎排出量を基礎とすることが明示されました(「温対法基準」BC21項)

左記の規定に従い、以下の対応関係となることが明確化されています(「温対法基準」7項(1)(2)①)

スコープ1:

SHK制度による直接排出について、期間調整を除き、追加調整は不要

スコープ2(マーケット基準):

SHK制度による間接排出について、期間調整を除き、追加調整は不要

SHK制度による場合、ロケーション基準に基づく開示が必要となるか(注) SHK制度において記載される全国平均係数および代替値などの平均的な排出係数を乗じて測定することが可能(「温対法基準」BC25項)であるため、ロケーション基準に基づく開示が必要であることが明示されました

左記の規定に従い、以下の対応関係となることが明確化されています(「温対法基準」7項(2)②)

スコープ2(ロケーション基準):

SHK制度による間接排出について、平均的な排出係数を乗じる方法により算定することで、期間調整を除き、追加調整は不要

主な論点 論点に対する「温対法基準」の規定 「温対法基準」による開示のポイント
SHK制度における基礎排出量と調整後排出量のいずれを基礎として用いるのか 温室効果ガス排出量の開示では、基礎排出量を基礎とすることが明示されました(「温対法基準」BC21項)

左記の規定に従い、以下の対応関係となることが明確化されています(「温対法基準」7項(1)(2)①)

スコープ1:

SHK制度による直接排出について、期間調整を除き、追加調整は不要

スコープ2(マーケット基準):

SHK制度による間接排出について、期間調整を除き、追加調整は不要

SHK制度による場合、ロケーション基準に基づく開示が必要となるか(注) SHK制度において記載される全国平均係数および代替値などの平均的な排出係数を乗じて測定することが可能(「温対法基準」BC25項)であるため、ロケーション基準に基づく開示が必要であることが明示されました

左記の規定に従い、以下の対応関係となることが明確化されています(「温対法基準」7項(2)②)

スコープ2(ロケーション基準):

SHK制度による間接排出について、平均的な排出係数を乗じる方法により算定することで、期間調整を除き、追加調整は不要

(注)SHK制度では、スコープ2(マーケット基準)相当の報告が要求されているものの、スコープ2(ロケーション基準)相当の報告は要求されていないため、本論点が生じていました。

以上のように、「温対法基準」の公表により、SHK制度に基づいてすでに算定・報告している温室効果ガス排出量の情報が、期間調整を除き追加調整することなく、SSBJ基準のスコープ1、2の開示に活用できることが明確化されました。
今後は、「温対法基準」に従い、SHK制度で算定した温室効果ガス排出量をSSBJ基準のスコープ1、2の開示に活用することで、開示実務の効率化を図る体制を整備することが望まれます。
これらのサステナビリティ関連財務情報は、有価証券報告書に記載する情報ですが、経理部門がこれまで取り扱ってきた財務情報の報告とは性質が異なります。SSBJ基準の適用に向けた対応や適用に向けた課題についてご不明な点がございましたら、ぜひお問い合わせください。