意外と盲点!新収益認識基準の注記への対応

2020年3月に日本の新収益認識基準が改正され、注記事項が追加で定められました。新基準は、2021年4月以降開始する事業年度から強制適用ですので、3月決算であればあと数か月、2月決算であれば1年と少しで適用開始となります。新基準の強制適用時点で注記もあわせて適用されます。適用初年度は、比較情報(前期の情報)に関しては注記しないことができることとされていますので、適用初年度の期末(一部の注記は四半期末)から注記作成が必要となります。

注記の内容は国際的な企業間の比較可能性を確保するために、IFRS第15号の定めが基本的にすべて取り入れられています。内容は大きく3つに分類できます。
(1)収益の分解情報で、数値の情報
(2)収益を理解するための基礎となる情報で、文章で記載する情報
(3)当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報で、数値あるいは文章の情報

注記の作成作業は、決算スケジュールに大きく影響する作業のひとつです。決算早期化を実現している会社は、注記作成も含めた開示業務を効率化しているケースが多いと言えます。とくに新基準では多くの注記が求められているため、効率的な作成方法を構築することが重要です。

主な履行義務、収益を認識する通常の時点など、文章で記載する情報は一度作成すれば通常は翌期以降それほど大きく変わらない部分です。これに対し、数値の情報は、注記作成のために毎年集計する必要があります。このような数値の情報の注記を作成するうえで、元のデータから集計作業が必要となる場合は、担当者の作成作業で集計ミスが生じたり、また、責任者のチェックや、監査人のチェックにおいて効率的とは言えません。このため、業務システムから効率的に数値を抽出できる仕組みを検討する必要があります。

とくに以下の3点に該当する場合などは、情報収集するためのシステムの追加対応が必要になる可能性があります。

(A)契約資産、契約負債の計上があり、その変動が当期の収益に影響を及ぼしている場合

期首契約負債残高から当期に収益に計上した額の注記が必要です。また、当期中の契約資産及び契約負債の残高の重要な変動がある場合にはその内容の注記が必要です。
システム対応例:
債権債務管理において債権、契約資産、契約負債の区分を追加し、各期首残高、期末残高、期中増減額について履行義務ごとの金額を把握できるようにすることにより、期中の変動内容を分析できるようにすることが考えられます。

(B)変動対価の見積による収益計上がある場合

過去の期間に収益を計上し、当期に取引価格が変動した取引の当期変動額の注記が必要です。
システム対応例:
販売管理において変動対価による当初収益計上額、その後の変動額について履行義務ごとの金額と全社集計金額を算定、表示できるようにすることが考えられます。

(C)当期末時点で未充足(又は部分的に未充足)の履行義務に配分した取引価格がある場合

残存履行義務に配分した取引価格の総額とこの残存履行義務の収益認識が見込まれる時期の注記が必要です。
システム対応例:
充足済み履行義務、未充足履行義務に取引価格の配分が必要な契約について、販売管理において履行義務ごとに未充足部分の金額を算定、表示できるようにすることが考えられます。そして、充足予定時期(年度)ごとに金額を個別に入力あるいは期間、進捗見積をもとに配分計算を行えるようにすることが想定されます。

新基準の会計処理への対応は進めていますが、まだ、注記への対応を進められていない会社は、自社への影響の把握、対応方法の検討を早目に行うことが望まれます。