温室効果ガス排出量算定後の次のステップ

気候変動への対応をはじめとするサステナビリティ情報について、上場企業を中心に開示対象・内容が徐々に拡大しています。
国内では2021年6月、コーポレートガバナンス・コードが改訂され、プライム企業を対象として気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言の枠組みに従った任意開示を促す取り組みが始まりました。
また、2023年1月、企業内容等の開示に関する内閣府令等が改正され、有価証券報告書などにおいて、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄を新設し、サステナビリティ情報の開示が求められることとなりました。
さらに、2025年3月、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)が、サステナビリティ開示基準(以降、「SSBJ開示基準」と呼ぶ)として、以下の3件の基準を公表し、プライム企業のうち時価総額が高い企業から順次適用することが議論されています。

  • サステナビリティ開示ユニバーサル基準「サステナビリティ開示基準の適用」
  • サステナビリティ開示テーマ別基準第1号「一般開示基準」
  • サステナビリティ開示テーマ別基準第2号「気候関連開示基準」

これらの開示に対応することなどを目的に、自社における温室効果ガス排出量を算定したものの、次に何をすればいいか迷われている企業様もいらっしゃるのではないでしょうか。
本コラムでは、サステナビリティ開示を進めるにあたり、温室効果ガス排出量を算定した後の次のステップとしてとくに取り組むべき内容2点について解説します。

1.削減行動につなげる社内管理体制の構築

気候変動に関するSSBJ開示基準では、温室効果ガス排出量の実績とともに、目標(「気候関連開示基準」92項)や目標を達成するための計画(「気候関連開示基準」28項(1))を開示することが求められています。
このため、実績を把握するのみならず、目標を達成するための削減行動につなげていくことが必要になります。削減計画を立案するにあたっては、排出は何から生じているのか、製品別などの原因分析から始めることになりますが、そのためには製品別などでの燃料・電力消費量などの把握が必要になります。また、燃料・電力消費量などの情報が、工場や機械などのまとまった単位でしか把握できない場合、原因分析が難しくなる可能性があります。より厳密に原因分析する目的で製品別に配賦(使用時間などの基準で燃料・電力消費量を製品別に分ける)をすることも考えられます。
他方で目線を変えると、各企業が削減目標の達成に取り組んでおり、こうした動きに応える脱炭素製品・サービスを訴求することはその販売促進につながることがあります。ヤマト運輸(株)のカーボンニュートラル配送が注目されているのは、その一例といえます。
次のステップとして、一部に限らず多数の構成員に対し排出の原因を可視化するなど、削減行動につながるような社内管理体制の構築に取り組むべきと考えます。

2.内部統制の構築

SSBJ開示基準を適用する企業に対して、第三者保証も合わせて適用する方向で議論されており、かつISSA5000(国際サステナビリティ保証基準)と同様のルールが適用される見通しですが、この保証基準では内部統制を構築することも求められています。
現行の開示のための温室効果ガス排出量算定では、根拠となる燃料や電力消費量などの情報を個別に入手し、Excelで算定するなどの過程を経ていることも多いのではないでしょうか。この場合、収集したデータによって単位が異なる(例えば、kgとt)ことにより換算を誤ったり、換算の係数の適用を誤ったり、古いデータを使ってしまったりすることが起こりやすくなります。
このため、内部統制を構築する必要が生じることも見据え、システムの活用や二重チェック体制の整備など、数値の集計・計算の正確性を高めるような社内管理体制を構築することを次のステップとして取り組むべきと考えます。

このように、将来を見据えると、サステナビリティ開示を行うためには、現在の財務報告数値と同程度の管理体制を構築することが求められると考えられます。
SSBJ開示基準などが強制適用されるまでは時間の猶予が設けられていますので、次のステップとしてできることから取り組むことが望まれます。