新収益認識基準対応支援
2018年3月に公開された新収益認識基準について、この4月より3月決算会社の原則適用が始まり、いよいよ第1四半期決算を迎えました。
前回は、これから新収益認識会計基準の決算を迎える会社に向けて、「(1)適用初年度に気にするべきポイント」を解説しました。今回は、3月決算の上場会社各社が悩まれた論点のなかで、「(2)第1四半期決算にあたりとくに問い合わせの多かった『進行基準』の適用初年度仕訳」について解説します。
前回のコラムでは、適用初年度には、法人税と消費税に関して留意が必要なことを解説しました。
今回のテーマである「進行基準」は、新収益認識基準を適用した際に、従来基準よりも多くの企業が適用を求められることとなった重要な論点であり、同時に法人税、消費税の取扱に留意するべき論点でもあります。
今回は、3月決算会社から多くの問い合わせがあった「比較年度までは完成基準を適用していたけれども、適用初年度の期首からは進行基準を適用することとなった案件」に関する適用初年度仕訳について解説します。
まず、法人税法上、比較年度に完成基準で経理処理している案件についての取扱は以下の表のとおり整理されます。
| 適用初年度 完成基準案件 | 適用初年度 進行基準案件 | ||
|---|---|---|---|
| 会計 | 比較年度 | 完成基準 | 完成基準 | 
| 適用初年度 | 完成基準 | 進行基準 | |
| 法人税 | 完成基準※ | 完成基準※ | |
※税務上の長期大規模工事等進行基準が強制適用される場合を除く
表にあるとおり、比較年度にすでに着工されており、すでに完成基準で会計処理されていた案件については、新収益認識基準適用初年度において会計上進行基準を適用することとなっても、税務上は完成基準の適用が求められます(税務上の長期大規模工事等を除く)。したがって、「比較年度までは完成基準を適用していたけれども、適用初年度の期首からは進行基準を適用することとなった案件」に関しては、税務申告および税効果会計適用のために、進行基準、完成基準の両方の数値を作成しておくことが必要となります。
事例:
比較年度に完成基準で経理処理している案件について、適用初年度から進行基準を適用することとなった場合
会計処理:
適用初年度の期首時点で進行基準を適用したものとして、進行基準の会計処理を行う。当該案件は税務上は完成基準とする必要があるため税効果会計を適用する。
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 契約資産 | 100 | 進行基準売上 | 100 | 
| 売上原価 | 80 | 仕掛品 | 80 | 
| 法人税等調整額 | 7 | 繰延税金負債 | 7 | 
 
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 契約資産 | 100 | 利益剰余金 | 13 | 
| 仕掛品 | 80 | ||
| 繰延税金負債 | 7 | ||
次に、消費税に関しては以下のとおり整理されます。
| 会計 | 完成基準 | 進行基準 | |
|---|---|---|---|
| 消費税 (売上) | 完成基準 | 進行基準 or 完成基準 | |
| 消費税 (仕入税額) | 原則 | 資産受取・役務完了 | 資産受取・役務完了 | 
| 例外 | 完成基準 | 完成基準 | |
消費税法上、進行基準を適用する場合には進行基準、完成基準のいずれかの採用が可能となっており、どちらを採用するかによって、適用初年度仕訳に影響があります。
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 契約資産 | 100 | 進行基準売上 (課税対象外) | 100 | 
 
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 契約資産 | 100 | 利益剰余金 | 100 | 
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 契約資産 | 100 | 進行基準売上(課税) 仮受消費税 | 100 10 | 
 
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 契約資産 | 100 | 進行基準売上(課税) 仮受消費税 | 100 10 | 
| 進行基準売上 (課税対象外) | 100 | 利益剰余金 | 100 | 
このように、会計上進行基準を適用する案件について、消費税法上は完成基準を適用する場合、適用初年度仕訳においては単純に進行基準相当額の売上金額を利益剰余金に振り替えます。一方、会計上進行基準を適用する案件について、消費税法上も進行基準を適用する場合には、いったん、税率コードの付与を考慮して売上を計上する必要があることから、課税売上として進行基準売上を計上する一方で、利益剰余金に振り替える部分に関しては課税対象外となることに留意が必要です。
新収益認識基準の適用は会計処理だけの問題ではなく、税務、システム、さらには業績管理までさまざまな影響が発生します。原則適用にあたっては、さまざまな視点から本基準に向き合うことが肝要です。
※当コラムの内容は個人的な見解であり、BBSの公式見解ではないことをお断り申し上げます。会計処理、税務処理の実施にあたっては、監査法人および顧問税理士にご相談ください。
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