IFRS第18号の導入にかかる実務対応―情報の集約と分解―

はじめに

2024年4月9日に国際会計基準審議会が、IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」(以下、IFRS18と表記)を公表しました。
この点、前回のコラムでは「新たな小計及び区分の追加」を題材に会計システムや勘定科目マスタへどのような対応が必要となるのかを扱いましたが、IFRS18の他の要求事項である「情報の集約と分解」についても類似の留意事項が生じます。そこで、今回は、「情報の集約と分解」の導入によりどのような対応が必要となるのか、「その他の名称への要求事項」を例に解説します。

IFRS18の要求事項(情報の集約と分解)と実務上の課題

IFRS18では表示および注記される項目の名称を当該項目の特徴を忠実に表現するものとしなければならないと定めており、項目の名称に「その他」を使用することのできる場面を限定しています。具体的には、「その他」のほかに有益な名称を見つけられない場合にのみ「その他」の名称を使用することができるとされており、この場合においても情報に重要性がない項目のみで構成される状況を除いて、「その他の営業費用」や「その他の金融費用」のように構成要素を示す名称を用いることとされています(IFRS18 B25項、B26項)。

しかしながら、既存の勘定科目コード(その他の名称を含むもの)が上記の要求事項に対応しているとは限りません。ゆえに、IFRS18の適用後も「その他」や「その他の〇〇」という名称を引き継ぐためには、これらの勘定科目コードに含まれる項目を特定したうえで、「その他」のほかに有益な名称を見つけられない場合に該当することを確認しなければなりません。当該確認作業の結果、例えば、情報に重要性がある項目が「その他の営業費用」に含まれていた場合にはこれに対応した科目コードの新設を検討しなければならないなど、「情報の集約と分解」への対応は勘定科目コードの新設・廃止や名称変更に影響を及ぼします。また、「その他」の名称を含む科目の運用が変更されることになるので、既存の業務プロセスにおける仕訳起票の規則やシステム運用にも影響が想定されます。

なお、IFRS18では「その他」のほかに有益な名称を見つける方法の例示として以下が示されているため、これらに該当する場合には「その他」以外の名称を付すことが求められる可能性が高くなります(詳細はIFRS18 B25項をご参照ください)。

1情報に重要性がある項目が含まれている場合
2情報に重要性がある項目が含まれていない場合
2-1類似した特徴を共有している項目を集約したうえで、特徴を忠実に表現する名称がある
2-2類似した特徴を共有していない項目と集約したうえで、特徴を忠実に表現する名称がある

おわりに

今回は、IFRS18の特徴の一つである「情報の集約と分解」のうち、とくに、「その他」の名称にかかる要求事項への対応を扱いました。IFRS18は「MPMs」や「新たな小計及び区分の追加」が注目されがちですが、「情報の集約と分解」にも注意が必要です。なぜなら、主に注記に影響する「MPMs」や主に表示に影響する「新たな小計及び区分の追加」と異なり、「情報の集約と分解」は表示と注記の双方に影響を与えるためです。したがって、「情報の集約と分解」を含めIFRS18が決算財務報告にどのような影響を及ぼすかを早期に特定し、対応策の検討とリソースの確保を行うことが望まれます。例えば、勘定科目コードの新設や廃止は単体会計システムの勘定科目マスタや日常の仕訳起票に影響を及ぼすことを意味しており、連結財務諸表作成の観点からは子会社に展開する連結パッケージに「情報の集約と分解」の影響を反映する必要があるなど幅広い検討が必要となります。企業のリソースによっては影響度調査のみ会計専門家のコンサルを受けるなど柔軟な対応をご検討ください。

(補足)項目・科目について

本文内で使用した「項目」「科目」「分類」「集約」「分解」の概要と関係は下表のとおりとなります。なお、各用語の正式な定義はIFRS18 第41項および付録Aをご参照ください。

取引及びその他の事象
⇩発生
⇩集計資産/負債/純資産/収益/費用/キャッシュ・フロー
分類共有している特徴に基づき区分け
集約分類と特徴を共有するものを足し合わせる
分解項目内の特徴を共有していない構成要素を分けること
項目基本財務諸表合計(総資産など)
小計(営業利益など)
科目(販売費など)
注記開示項目

※ IFRS18 第41項および付録Aより執筆者作成

※当コラムの内容は私見であり、BBSの公式見解ではありません。